第二次カラヤ村防衛戦(四)

 まだ肌寒さが残る早朝。カミーユ君、ロット君、私の三人は村で正規軍の出発を見送った。

 彼らエルトリア王国軍アカイア駐留隊の四十名は、南の山にある小鬼ゴブリンの巣を討滅するべく行動を開始したのだ・・・・・・私達にとっては派手なおとりのようなものだが。


 直後、【位置特定ロケーション】を掛けてあった短剣の位置が動きだした。軍が向かったのとは別の巣、西側の山の小鬼ゴブリン達に動きがあったということだ。


「カミーユ君、西の小鬼ゴブリンが動き出したよ」

「もう出てきた?・・・・・・了解。そちらの偵察を開始して」


 私は目をつむり、【使い魔ファミリアー】の魔術で支配しているからすの視界に集中した。西の山の上空から小鬼ゴブリンの一隊を見下ろす。


「十二、十三・・・・・・十四匹。そのうち上位小鬼ホブゴブリンが二匹」

「魔術を使えそうな個体はいない?」

「見たところいないみたい。でも一匹、妙に偉そうなのがいる」

「偉そうな?どんなふうに?」

「立派な鎧に外套マントまで着てる。武器も高そうな小剣と盾。あ、それに昨日ロット君が投げた短剣も差してある」


 その個体は明らかに異質だった。体格は他の小鬼ゴブリンよりも一回り大きい程度だが、整った服装と武装、何よりその立ち居振る舞いが知性を感じさせる。


「ふうん。小鬼王ゴブリンロードかな」

ロード?じゃあそいつが親玉ってこと?」

「それは保留。まずは奴らの行き先を確認するよ」




 私が【使い魔ファミリアー】の魔術で視界を共有しているからすで偵察を行い、カミーユ君が地図にその結果を記入していく。


「南に進んでるね。村じゃなくて軍が向かった巣の方」

「わかった。ユイさん、【使い魔ファミリアー】の魔術は解除していいよ。僕らも南の巣に向かおう」


 使い魔のからすを解放し、何度か目をしばたかせて自分の視界を取り戻す。

 村ではなく正規軍の方に向かうとは意外だったが、カミーユ君はこの事態も想定していた。軍の主力が南の巣に入ったところを中と外から挟撃するつもりだろう、と。


 小鬼ゴブリン厄介やっかいなのはこういうところだ。ほとんどの個体は人間の子供ほどの体格と知性しか持たないのだが、中にはそれなりに知恵が回る者もいれば魔術を使う者もいる。下級妖魔とあなどって起きた悲劇は数えきれないほど存在するのだ。


 村で警戒に当たっているカイルさんに小鬼ゴブリンの動向を伝えてから、ロット君、カミーユ君、私の三人で南側の山道に踏み込んでいく。正規軍の背後を取ろうとする小鬼ゴブリン達のさらに背後を進む形だ。

 小鬼ゴブリンとの距離を保つために度々たびたび立ち止まるのだが、カミーユ君の動きが少しおかしい。時折り立ち止まったりうつむいたりしている。


「カミーユ君、疲れた?」

「いや、違うんだ。ちょっと気になる事があって」

「何かあった?」

「軍が南の巣に向かったら、すぐに西の巣から小鬼ゴブリンが出てきたよね。巣から村は直接見えないはずなのに、こちらの動向を掴むのが早すぎると思ったんだ」

「ゴブリン側にも【位置特定ロケーション】か【使い魔ファミリアー】の魔術を使える奴がいる・・・・・・?」

小鬼ゴブリンの魔術師はそこまで優秀じゃないと思うけど、可能性はあるね。ちょっと考えてみるよ、周囲の警戒は二人に任せる」




 やがて洞窟の入口が見えてきた、あれが南側の巣だろう。

 正規軍の一隊五~六名ほどが所在なげにたたずみ、隊長さんが折り畳み椅子に座って何か食べている。主力を中に送り込んで結果待ちというていだろうか、遠目に見ても警戒が緩んでいる。


ひどいな、あれじゃ駄目だ。ユイさんお願い」

「わかった。・・・・・・万里を駆ける風の精霊、我が声を乗せてはしれ。【風の声ウィンドボイス】」


小鬼ゴブリンが外から迫っています、警戒してください!』


 私の声は風に乗り、三百歩ほど離れた軍の方々に届いたはずだ。隊長さんがひっくり返り、周りの兵士達が右往左往する。

 これは逆効果だったかもしれない、と私は少々焦ったが、もう一度同じことを伝えるとようやく兵士が槍を構えた。隊長さんが洞窟の奥に向かって何やら怒鳴り散らす。それを見た小鬼ゴブリン達も異変を感じ取ったか、足を速めて洞窟に迫る。


「こっちも急ごう。ユイさん、ロット、あとはお願い」

「おう、肉体労働は任せろ!」


 やけに張り切るロット君が駆け出し、私もそれに続いた。


 張り切っているのは彼だけではない。私だって昨年とは違う、この一年でつちかった力を今こそ見せてやる。確かにそんな思いがあったから。

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