卒業記念試合(二)
「ロット、頑張れよ」
「ロット君、頑張って」
カミーユ君に続いて私もロット君と軽く拳を合わせたが、伝わってきた感触は硬く冷たかった。
無理もない。二年生のドルス先輩は帝国からの留学生であり、文武共に優秀で優勝候補の筆頭に挙げられている。いくらロット君が強くなったといっても、冷静に見れば勝ち筋は見当たらないだろう。問題はどれくらいの差があるかだけれど・・・・・・
「ユイちゃん、上から見よう」
「あ、うん」
カチュアに
「強いよね、やっぱり」
「ん、まあね」
「さすがに厳しいだろうね。何だかんだ言ってそれなりの剣士だから」
言いにくそうに口ごもるカチュアに代わって、カミーユ君が答えてくれた。先日ドルス先輩の
「両者構えて、始め!」
軽く剣先を合わせ数歩の距離をとったかと思うと、すぐさまロット君が仕掛けた。
力感あふれる動作で上段から打ち下ろし、追撃の横薙ぎを見舞い、一度離れて遠い間合いから再び打ち下ろす。私の目には長身を活かした力強い打撃に見えたのだが、隣の席のカチュアは眉をひそめたようだ。
「これはちょっと隙が大きいかも・・・・・・」
彼女が
審判の先生が割って入り、一度試合が止まる。相手の武器が体に触れるか場外二回で負けという規則のため、これでもう退くこともできなくなってしまった。
「ロット君・・・・・・落ち着いて」
私は組み合わせた両手に力を込め、大きく息を吐き出すロット君を見つめた。顔が蒼白い、体が
試合が再開されると、今度はドルス先輩の方が先に打ち込んだ。ロット君が
「・・・・・・」
「あいつ・・・・・・」
押し黙るカチュア、舌打ちに続いて小さく
ドルス先輩はロット君の剣を撥ねのけては叩き落とし、
観覧席に低いざわめきが広がっていく。傷ついた
激しく呼吸を乱したロット君は、それでも愚直に剣を突き出し振りかぶる。その勢いにとうとうドルス先輩が受け損ね、姿勢を崩した。そこにロット君渾身の打ち下ろしが襲う、私も思わず身を乗り出したのだけれど・・・・・・
「危ない!ロット君!」
同じく身を乗り出したカチュアが叫んだのと、それが起こったのは同時だった。打ち下ろしを華麗に
床を朱に染めて人形のように倒れ込むロット君。それを呆然と
自力で
「ドルス先輩、あなたは・・・・・・」
「誰だお前は。何の用だ?」
「ロット君の妹です。怪我をさせた相手に一言も無しですか?」
「ふん。知ったことか」
さらに何か言おうとする私を止めたのは、意外にもカミーユ君だった。彼は先日ドルス先輩を挑発するような物言いをしたくらいだ、むしろ
「ユイさん、ごめん。僕が余計なことをしたのが悪かったんだ」
これもカミーユ君らしくない。彼は余計なことをしたとも悪かったとも思っていない、自分が正しいと信じているはずだ。そう言おうと思ったのだけれど、意外にも強い力と眼光に押さえつけられてしまった。
「だから、あいつを潰す役目は僕に譲ってくれないかな」
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