収穫祭
広い室内競技場に鳴り響いていた演奏が終わると、二階観覧席から盛大な拍手が起こった。ラミカとプラたんに挟まれた席の私も立ち上がって痛いほど手を叩く。
「おお~、すごいねえ」
「迫力あったねえ」
「・・・・・・うん」
階下には手に手に様々な楽器を
つい忘れがちだが、私達が学ぶこの施設は「軍学校」だ。卒業すれば多くの者がエルトリア王国軍に所属し、あるいは公職に就き、そうでない者も十年間の予備役扱いとなる。いわば彼ら彼女らは大先輩だ、私達もこのようにして母校を訪れることになるのかもしれない。
『収穫祭』。農作物の収穫を終え、豊穣の女神ニサに感謝して行われる祭りの総称。
秋も深まるこの時期にはエルトリア王国に限らず各地で様々な
「次の演目は何?」
「・・・・・・音と水の調べ。魔術と音楽の融合?」
「よくわかんないねー」
聞いた私も、答えたプラたんも、感想を述べたラミカも、揃って首をひねってしまった。題名だけではよくわからない、実際に見てくれということだろう。
階下の競技場に三人の女性が入場してきた。深緑色の地に金糸で
重く静かに打ち鳴らされる打楽器に合わせて、杖先から細い水流が
次第に音楽も水の舞も激しさを増し、三つの水流が絡み合って龍のごとく客席を一周。中央に戻ったところで、演奏の終了に合わせて跡形もなく消え去った。
「おお~!すごいすごい」
「すごいねー。プラたんならできそう?」
「・・・・・・ん、無理かも」
答えつつ指先から細い水流を発現させたプラたんだったが、水の精霊達が小さく弧を描いて戻って来るまでに僅かに制御を乱し、制服に小さな染みを作ってしまった。
学業優秀で水の魔術を得意とするハーフエルフのプラたんでさえこの程度だ、劣等生の私や暴走気味のラミカでは周囲を水浸しにしてしまうのが落ちだろう。楽しげな演目という形をとっているが、確かな実力に裏打ちされた高度な技術に違いない。
続いて数十人での整列行進、交差行進、団体演武、最後に五十人規模の模擬戦。木剣と木盾を手にした一団の集団戦闘、それも指揮官の下に制御されて行われる戦闘は闘技場のごとく大歓声が上がるほど見応えがあったのだけれど・・・・・・
「ははははは!これが正規軍の集団戦とは。エルトリア軍も底が知れるというものだな」
数歩後ろの客席から大きな声が響き、私もプラたんもラミカも、一列前のカチュアもロット君もカミーユ君も、周囲の生徒達も一斉に声の主を振り返った。
均整の取れた長身、
「個々の剣技といい、戦術といい、見るに
非難の視線を浴びても悪びれることもなく、むしろ
「あれは誰?」
「ドルス先輩。帝国からの留学生なんだ、ごめんね」
小声で私が問い小声でカチュアが答えた、そこまでは良かった。だがカミーユ君の解説は余計だったと言わざるを得ない。
「剣術、戦略戦術、一般教養、全ての科目において学年一位の尊敬すべき先輩さ。史上最低と言われる四十七期生の中でね」
聞かせるために言ったのだから聞こえたに決まっている。周囲の空気が凍りつき、ドルス先輩本人も取り巻き達も口を開けたまま言葉を失った。
困ったことに、カミーユ君の言葉は嘘ではない。一学年上の四十七期生は人数が多いばかりで
対して私達四十八期生は『
それだけに、事実を表した言葉が先輩方の胸に突き刺さること疑いようがない。天使が横切ったような数瞬の後、ドルス先輩は席を蹴って立ち上がった。こうして下から見上げるとかなりの長身だ。
「貴様、俺を
「お断りします、先輩。学内での私闘は禁じられていますよ、それに他者を
遅ればせながら取り巻きの先輩方も立ち上がり、ざわめきが広がって階下の模擬戦どころではなくなってしまった。
結局収まりがつかずにカチュアが仲裁に入り、先生方の到着を待ってカミーユ君が頭を下げたものだが、彼の謝罪には一片の誠意も見られなかった。
言っていることは正しいし度胸も見上げたものだが、相手を挑発したり反応を面白がったりするのは悪い癖だと思う。
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