夏合宿(三)
もうすぐ陽が沈む。十日間の夏合宿が終わってしまう。
終わってしまう、という言い方は適当ではないかもしれない。炎天下の走り込みで
でも私にはやり残したことがある。ロット君を交えた三人での勝ち抜き戦で、私は一度もカチュアに勝っていないのだ。いくら彼女が強いといっても、その本人に毎日
この日の二十九戦目、ロット君の猛攻をしのぎ切ったカチュアが擦れ違いざまに胴を薙いで決着がついた。さすがに
「これで最後だね。行くよ、カチュア!」
「うん!」
まだやるのかと抗議の
膝だけではない、体のあちこちが痛い。掌も足の裏も血だらけ豆だらけ、太腿も
たぶん剣術を修めることを目的とするならば、これはきっと効率の悪い修練なのだろう。体を痛めつければ良いというものではないし、このように体がうまく動かない状態で得られる技術は少ないのかもしれない。
でも私は
「くうううっ・・・・・・」
「んっ・・・・・・」
カチュアの口から微かに吐息が漏れる。体格と腕力に劣るはずの私が少しずつ押し込んでいる、それほど彼女は疲労しきっている。
でも初日はここから必勝の態勢を作ったにもかかわらず、奇術のような
あの時私は選択を誤ったのかもしれない。今度は必殺の一閃ではなく優勢を譲らない連撃でさらに相手を追い詰める選択肢を採ることにした。
「今度こそ・・・・・・今度こそ決めてやる!」
「くっ・・・・・・!」
普段のカチュアの教え通り姿勢を崩さず、
連撃の七段、八段、九段目まで防がれたが、そこで大きく姿勢を崩したカチュアの木剣を巻き取り、
「おい!そっちは危ねえぞ!」
ロット君の声が聞こえたような気もするが、私達の足元にはもう地面が無かった。奇妙な浮揚感、次いで激しい水音。そういえばここが池の近くだったと気付いたのは、生ぬるい水の感触を全身に感じてからだ。
力が入らない、水底の泥に足を取られる、どちらが上だかわからない。ロット君が力任せに引き上げてくれなければ、こんな足が着くような池でも溺れていたかもしれない。
「ふう・・・・・・ユイちゃん大丈夫?」
「お前さ、いつもは冷静なくせにカチュアが相手の時だけ熱くなるのな」
全身ずぶ濡れのカチュアの顔に黒髪が貼りついている、ロット君も膝まで泥に浸かって
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