十五歳の学園生活(五)

「カチュアって、あのカチュアか?」

「あのカチュアって、どのカチュアよ」


 久しぶりにロット君に会ったので学校のロビーでお茶をしていたのだが、いつしか険悪な雰囲気になってしまった。一緒にいたカミーユ君が間に入ってくれたので、少し気持ちを落ち着かせる。


「帝国から留学で来てるカチュアだね。彼女は凄いよ、さすがは武門のほまれ高いユーロ侯爵家の出自だ」

「そうなの?」

「あれ、知ってるんじゃなかったの?」

「帝国の貴族っていうのは聞いたけど、家柄がどうとかは聞いてない」


 カミーユ君が聞きたがったので、以前カチュアから聞いた話を伝えた。ハバキア帝国とエルトリア王国は長らく友好関係にあること。留学には政治的な意図があり、優秀な成績を収めて国威を示す必要があること。そのため名家から選ばれた子弟が派遣されていること。


「まあそうだね。でもそれは帝国側から見た事情かな、エルトリアこちらにはまた別の事情がある」


 確かに両国の関係はここ二十年ほど良好だが、それはエルトリア国王の政治力によるところが大きい。二倍以上の国力を誇る帝国に対して決して逆らわず、だが臣従しんじゅうもせず、周辺諸国と連携をとり、付かず離れずの距離を保っている。


 各種学校への留学に関しても、帝国からの留学生は丁重に扱われ学費も免除、卒業時の席次も余程のことがなければ主席とされる。逆にエルトリア王国から帝国への留学生は「ほどほどの成績を収める」ことを言い含められて送り出される・・・・・・


「だからカチュアに対して、みんながれ物に触るようになるのは仕方ないんだ」

「彼女はそんなの望んでないよ。みんなと普通に話して、訓練だって一緒にやりたいんだよ」

「でも万が一、怪我でもさせたら・・・・・・」

「カチュアに怪我させるだけの力があなた達にあるの!?」


 言い争いの原因はこれだった。毎朝カチュアと剣術の訓練をしているから一緒にどう?と聞いてみたところ、訓練どころか彼女を避けるような返答が返ってきたのだ。

 聞けば訓練でも本気で剣を打ち交わす相手はなく、授業の合間に話しかける人もいないという。私と知り合い、打ち合ったとき嬉しそうだったのはそのためか。


「だいたいロット君、カチュアに勝つ気はある?」

「何だよいきなり。そんなのあるに決まって・・・・・・」

「この学校に来るとき、『剣の達人エスペルトになる』って言ったよね?カチュアこそその域にあると思う。彼女を避けてたらいつまでも勝てないよ」

「俺だって必死にやってるよ!あんな天才と一緒にするなよ」


 これは聞き捨てならない。ロット君は言ってはいけないことを口にしてしまった。


「カチュアが天才?本当にそう思ってるの?」

「そうだろ。俺達と同い年で先生より強いとか、天才以外の何なんだよ」

「あの鍛え抜かれた体、一年や二年じゃできないよ。掌だって硬くてぼろぼろで豆だらけ。それに彼女の説明は論理的ですごくわかりやすいよ、自分で考えて試して工夫して、それを何度も何度も繰り返したしたからだと思う。カチュアの強さは努力の積み重ねだよ、才能なんかじゃない」

「恵まれた環境のおかげだろ。子供の頃からちゃんとした先生がいてさ」


 ばん!と私はテーブルを叩いて立ち上がった。加減したつもりだったが、お茶の入ったカップが三つ大きく揺れた。何事かと周囲の視線が集まる。


「ロット君、あなたはカチュアに一生勝てない。剣の達人エスペルトになんてなれない」

「ユイさん、言い過ぎだよ。ロットだって・・・・・・」

「ごめんねカミーユ君。いろいろ教えてくれてありがとう」




 つい感情的になってしまったのは悪かったと思う。でもカチュアに対する認識を改めないことと、「天才」という言葉だけは許せなかった。


 この日以降、ロット君とは気まずくなってしまった。正式に兄妹になって遠慮がなくなってしまったのだろうか。また仲直りして一緒に家に帰ることができるだろうか・・・・・・

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