十五歳の学園生活(三)

「うーん・・・・・・」

「やっぱ無理だよねー」

「わかってたけど、これほどとはね」

「買いに行くなら付き合うよー」

「じゃあお願いしようかな」


 軍学校に入学して五十日ほど。少々困ったことがある。


 寮の食事で栄養状態が良くなったためか、少しずつ体つきが女性らしくなってきた。端的たんてきに言えば胸が膨らんできたのでそれを押さえる物、つまりその・・・・・・胸当てブラジャーが必要になったのだ。試しにラミカのものを着けてみたのだが、やはり無謀な試みだった。甜瓜メロンどころか西瓜すいかが二つ入ってしまう。




 学校が休みのこの日、私はラミカ、プラたん、カチュアと連れ立って街に出た。天然ボケのラミカだけでは何かと不安だし、胸の大きさ的にはハーフエルフのプラたんが丁度いい。カチュアは運動の際にさまたげにならない物を選んでくれるという。


「あ、クレープだー」

「・・・・・・私、チョコバナナクリーム」

「ちょっとー、また食べるの?」


 ラミカとプラたんが、ふらふらとお菓子の屋台に吸い寄せられていく。これで三軒目だ。


「ねえ君達、軍学校の生徒?」

「え?」


 年の頃は私達より少し上だろうか、背の高い男子三人組に声をかけられた。おそらく制服で学校がわかったのだろう。私とラミカとプラたんは白いブラウスに緑チェックのプリーツスカート、剣術科のカチュアは同じ生地のスラックスを穿いている。


「スカートってことは魔術科なの?すごいね、ちょっと魔術使ってみてよ」

「え、あの、そんな簡単に使うものじゃないので・・・・・・」

「ちょっとお話聞かせてよ。そこでパフェでも食べながらさ」


 ラミカはクレープを食べながら放置を決め込んでいるし、プラたんはラミカの、カチュアは私の陰に隠れてしまった。ひょっとしてこれは私が対応する感じだろうか。


「すみません、私達用事があるので」

「少しだけ、ちょっとだけだからさ」

「失礼します・・・・・・」


 三人をうながしてそそくさと立ち去ると、「お前じゃねえよ!」という声が後頭部にぶつかった。

 そんな事は承知している。人目をく体型のラミカ、神秘的なハーフエルフのプラたん、黒髪清楚で控え目なカチュアと比べられたら、貧相でぎょろりと目ばかり大きい私は可哀想だ。


「ごめんユイちゃん、わたし人見知りで」

「別にいいけど、訓練の時とずいぶん違うね?」

「よく言われる・・・・・・」


 カチュアが申し訳なさそうに肩を縮こませる。ひとたび剣を握れば鬼でも妖魔でも斬り捨てる達人エスペルトだというのに、この落差は何事だろう。ラミカやプラたんともまだ打ち解けていない様子なので、これを機会に仲良くなってくれれば良いのだけれど。




 目的の店に着いたのは、寮を出てからたっぷり二時間が経った頃だった。小さいが洒落しゃれた店構えで、看板にはピンク色の文字で「フェミニン」と書いてある。店の名前だろう。


「ええと・・・・・・」

「ユイちゃん、こっちこっち」


 当然と言うべきか、私は女性用の下着売り場に侵入した事はない。見慣れない華やかな下着に囲まれて目を回しているところをラミカが引っ張ってくれた。


「これなんかどう?」

「いやそれ、ラミカのサイズだよね?」

「・・・・・・これ、可愛い」

「んー、可愛いけどフリフリすぎて恥ずかしいかな」

「これ私が使ってるのと同じなんだけど・・・・・・」

「機能的で良さげだけど、っかいね!?」


 さんざん迷った末に、カチュアが選んでくれた中で比較的安いものを購入することにした。二枚で五百ペル、予想外の痛い出費だが仕方ない。皆もデザインがどう、最近の流行はやりはこう、でも値段が、とそれぞれ下着を選んで、外に出た頃には既に陽が傾きはじめていた。


「ねー、パフェ食べて帰ろー」

「・・・・・・私、ストロベリー」

「まだ食べるの!?またお菓子だけで夕食済ませる気だね?」

「パフェはご飯だよー」

「えっと、私も食べたいかな」

「カチュアまで?仕方ないなあ」




 街で買い物をして、同じものを食べて、他愛たあいもない話に花を咲かせる。


 こんな日々が続くとつい忘れてしまいそうだが、私達が通っているのはあくまで『軍学校』だ。二年の月日が経てば多くの者が軍に所属し、あるいは公職に就き、そうでない者も十年間の予備役扱いとなる。


 ましてカチュアは隣国の高級武官となる身だ、プラたんの故郷は人間の支配が及ばぬ地だ、ラミカはその才能ゆえ雌伏しふくを許されないだろう。


 数年の後に私達四人が席を同じくする保証は、無い。

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