十五歳の学園生活(二)
まだ夕刻と言うには早い放課後の教室。いつもならカチュアに魔術を教える時刻なのだが、この日はまだやる事があった。
「バカ」「カス」「ブス」等々、机に書かれた
魔術は一般の人々から見れば奇跡のように思われるけれど、決して万能ではない。例えば色とりどりのクレヨンで書かれたこの落書きを瞬時に消す魔術は存在しないのだ。だからこうしてお湯に
入口のあたりで物音がした。誰かが入って来ようとして私に気付き、立ち止まったようだ。
「あっ・・・・・・」
「なあに、リース。入っていいよ」
腰まで伸びた長い黒髪が印象的な女の子は、おどおどとこちらの様子を
「リース、落書き消すの手伝ってくれない?」
「あ、うん・・・・・・」
リースはやはりこちらの様子を
「ねえリース、あなたはこんな落書き書いて楽しかった?」
「わ、私はこんなの書いてない・・・・・・」
「アシュリー達が書いているのを見てたんだよね?なら止めてほしかったな」
「・・・・・・ごめんなさい」
この子はいつもアシュリー達と一緒にいるけれど、積極的に悪口を言ったり嫌がらせをしてくる訳ではない。こうして一対一で向かい合えば、むしろ弱気でおとなしいくらいだ。普段の授業態度に目立ったところはなく、成績も私がいなければ最下位だろう。
「本当はこんな事したくないんでしょ?アシュリーが怖いから従っているだけだよね」
「アシュリーは留学生だし・・・・・・」
「だから何?」
「その・・・・・・私にも事情があるし・・・・・」
「事情?良かったら聞かせてくれない?」
気弱な少女は机を拭く手を止めずに、小さな声で少しだけ事情とやらを話してくれた。
リースは魔術の名家に生まれたが才能に恵まれず、厳格な両親の下で劣等感に
「だから力のあるアシュリーと一緒に、私を
「そんなことは・・・・・・」
「嫌ならやめなよ。親だとか家だとかに関係なく、自分の力で生きてみなよ」
「ど、どうやって・・・・・・?」
「それを自分で考えるってこと。自分がしたことが恥ずかしいならやめればいいし、嫌なら嫌だと言えばいい。他人に流されないで、自分で決めるんだよ」
「わ、私・・・・・・ユイちゃんみたいに強くないから」
場に耐えられなくなったか、リースはノートを拾い上げて急ぎ足で出て行こうとした。そこにもう一人が現れたのは偶然ではない、誰かが様子を
「あれえ?リース、泣いてるの?ユイちゃんに泣かされちゃった?先生呼んで来よっか」
「ち、ちが・・・・・・」
綺麗に
「どうしたのカイナ、落書き消すのを手伝いに来たの?」
「どうして私が?そんなの知らないもの」
机を拭きながら横目で
この子は私の見るところ、どうも
それに肝が
「行こう、リース」
「う、うん・・・・・・」
他人に流されるな、自分の力で生きろとは、十五歳の女の子には少し
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