真銀の指輪(二)

 カイルさんの家で夕食を頂くのは二回目だ。

 童話に出てくるようなランプの灯りに照らされた温かい食卓だが、正直なところまだ落ち着かない。前世から数十年、ずっと家族団欒だんらんなどというものには無縁だったのだ。何を話したらいいのかわからない。

 でも「おねえちゃん、おかえり!」とシエロ君とクリアちゃんが迎えてくれたのは素直に嬉しいし、暖かい部屋で温かい食事を食べられること自体が貴重に思える。


「ゆびわ!」

「ん?」

「きれい!」


 隣の高い椅子に座っていたクリアちゃんが、私の小指にはめられた指輪を目ざとく見つけた。


「あら本当。この前は無かったわよね?」

「あ、はい。教会でフェリオさんに頂いたので・・・・・・」

「ん?ちょっと見せてもらっていいか?」


 ロット君が興味を持つなんて意外と思ったが、そういえば細工屋さんで働いていたのだ。装飾品などに目が利くのだろう。


「これ真銀ミスリル製だぞ。細工もたぶん土人族ドワーフが施したやつだ、かなり高価な物だな」

「どのくらい・・・・・・?」

「俺じゃよくわからないけど、たぶん十万ペルじゃ買えないと思う」

「ええ!?」


 土人族ドワーフというのは大地に属する小柄な亜人種で、坑道や洞窟などに棲み金属の採掘や加工に優れた技術を持つ。彼らの手による細工品には一桁ひとけた上の値段が付けられるとまで言われるほどだ。そのような品を前にして、カイルさん、アメリアさん、ロット君、シエロ君、ついでにクリアちゃん、全員の視線が私に集中した。


「えっ、あのっ、別に盗んだとかじゃなくて、フェリオさんがくれたんですけど、たぶん私が貧乏だから、魔術の媒体にって、でもそんな高価なものだと知らなくて、あ、フェリオさんっていうのは私を助けてくれた巡見士さんで・・・・・・ええっと、返した方がいいんでしょうか???」


 目をぐるぐるさせてしどろもどろに説明したが、伝わったとは到底思えない。どうすれば泥棒だと思われなくて済むだろうか。


「心配するな、お前が人の物を盗むとは思わんよ。しかしどういうつもりだろうな?」


 カイルさんがそう言ってくれたので少し落ち着きを取り戻し、指輪を頂いたときの経緯を説明した。軍学校に行くことを勧められたがお金が無いこと、魔術の媒体に小汚い針金を用いていたこと、その代わりにと言われたこと。


「ふむ。お前も軍学校に行きたいのか?」

「え、はい。フェリオさんから聞いただけで、まだ詳しくは知らないのですが」

「では選択肢が二つあるな。一つは言われた通り魔術の媒体として身に着ける、二つはそれを売って学費にする。好きな方を選べということではないか?」


 勢いよくロット君が立ち上がった。ランプの灯りに大きな影が揺れる。


「ユイ、一緒に行こう!せっかくの魔術の才能、伸ばさなきゃもったいないだろ」

「う、うん・・・・・・でもちょっと動揺してるから、もう少し考えてみる。それに軍学校のことも詳しく知りたいから教えてもらえる?」


 指輪の価値を知ったからそう思えるのかもしれないが、言われてみればいくつかの植物を象(かたど)った意匠は繊細だし、普通の銀に比べると青白く輝いて見える。いや、そういえば私は銀もろくに見たことがなかった。


 私は改めてランプの光に指輪をかざしてみた。

 もしかしたら、この指輪が私の運命を切り開く鍵になるのだろうか。ならば私はこれをどう活かすべきだろうか・・・・・・

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