カラヤ村防衛戦(六)
「ロットにいちゃん!おにいちゃん!」
二階から悲鳴が降ってきたが、地に転がった若者は小さく
私のせいだ。私が無力なせいで、親切にしてくれた人達を悲しませてしまう。
動かなければ。いま行かなければ、本当に取り返しのつかないことになってしまう。なのに激痛と恐怖で全身が震えて動けない。
「うう・・・・・・ああああああああ!!」
私は人差し指を自分の頭に向け、【
最初の一撃こそこちらの勢いが上回って脇腹のあたりを打ち
「体格が、違い、すぎた・・・・・・?」
私は今更ながらに「女性のための剣術教本」の一文を思い出した。
『女性剣士は多くの場合、自分よりも体格や筋力に優れる相手と戦わなければならない。それらは戦闘において重要な要素ではあるが、勝敗を決定づける絶対的なものではない。場所、武器、技術、戦術、精神状態、損傷部位などを把握し自在に操ることで十分に勝機を
私はふうっと大きく息を吐きだした。
【
原型をとどめないほど折れ、凹み、曲がり、血に濡れた女神像の足首を持って正眼に構える。足の指で地面を掴み、少しずつ間合いを詰める。さらに詰める。鬼の間合いに入る。棍棒が無造作に、だが力強く振り下ろされる。女神像がそれを迎え撃つ。
「体格に優れる敵手と正面から打ち合ってはならない、相手の呼吸を外すことが肝要である。呼吸を外すとは・・・・・・」
私は寸前で手の内を緩め、武器を引いた。衝突の相手を失い宙に流れた棍棒を軽く払うと、それは角度を変えて地を
「呼吸を外すとは、敵手が予測したであろう打点とは異なる空間、異なる瞬間で武器を合わせることである」
がら空きの胴の横を駆け抜け、女神像を一閃。既に渾身の一撃を放てるほどの力は残っていなかったはずだが、ぐしゃりと胸骨が砕ける感触が手に伝わってきた。
「さすれば力は行き場を失い、強大であるほど大きな隙を生むであろう」
私は小さく
ごん、と音がした。
あ、死んだ。と思った。
目を開けると、鬼の首が目の前に転がっていた。
「遅れてすまない、よく頑張ったね」
聞き覚えのない声。逆光で顔もよく見えないが、自信に満ちた力強くて優しい声だ。
何がどうなったのかわからないが、もはや顔を動かすこともできない。
もういいや。少し、休ませてもらおう。
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