カラヤ村防衛戦(一)
「ユイ、悪いがお前を連れて行く訳にはいかない」
「えっ・・・・・・」
「荷物を担いで何時間も山道を歩き、場合によっては走らねばならん。そんな体では無理だろう」
昨日はあのままカイルさんの家に泊めてもらい、朝早く準備を整えているときだった。
やっぱり。カイルさんの目の前で倒れたのが悪かったのだ、使い物にならないと思われたに違いない。これからどうしよう、まずは仕事を探さなければ今日食べる物もない。
「今日はゆっくり休むといい。家の手伝いくらいはしてくれると助かるがな」
「え、あ、家にいていいの・・・・・・ですか?」
「もちろんだ。体を治してから後のことを考えよう」
「・・・・・・ありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂きます」
家族の中にいきなり異物が入り込んで申し訳ないけれど、正直なところ助かった。仕事が見つかるまで誠心誠意お手伝いさせてもらおうと思う。
「・・・・・・であるからして、この度の遠征は我ら中央軍の力を示す絶好の機会であるとともに、力なき国民を妖魔の脅威から守るという
隊長のお話が長くて居眠りしている方もいたようだ。私もつい疲れて座り込んでしまったが、正規軍五十名と自警団員八名は早朝にカラヤ村を発った。順調に
手を振ってカイルさんを見送ると、家に戻ってアメリアさんと一緒に朝食の準備。細工屋さんの仕事に行くという長男ロット君を見送り、食器を洗い終えると、今日は裏手にある菜園の手入れををさせてもらうことになった。
「おねえちゃん、きょうもいるの?」
「うん。もう少しお邪魔させてもらうことになったの」
「やったー!なにしてあそぶ?」
「畑のお仕事するから、一緒にやろうか」
「はーい!」
六歳のシエロ君はかなりのエロガキだが、それ以外は素直ないい子だ。畑の草抜きも汗を浮かべて真面目にやってくれている。
三歳のクリアちゃんは草を抜いていたかと思うと泥団子を作りはじめ、水たまりに飛び込み、元気すぎて少し目を離すとすぐいなくなってしまう。
子供達を見ながら
「あら?ユイちゃん、ずいぶん手際がいいのね」
「あ、はい。農園の手伝いをしたことがあるので」
「助かるわ。でもあまり無理をしないでね」
いま私が着ているのはアメリアさんの作業着だ。丈夫でゆったりした造りの機能的な服だが、小柄で痩せすぎの私にはかなり大きい。裾を二重に折り返し、麻紐で縛ってようやく自由に動けるくらいだ。胸の部分にメロンが二つ入るほど余ってしまうのは仕方がない。
「そろそろひと休みしましょうか。家でおやつにしましょう」
「おやつー!」
「あ、はい。お手伝いします」
クリアちゃんの泥だらけの手を引いて家に入ろうとしたとき、広場の方から激しい金属音が聞こえてきた。ガンガンガンガンガン、ガンガンガンガンガン、と五回ずつ、分厚い鉄を打ちつけるような音だ。異変があったときに鳴らす村の半鐘だろう、一昨日まで暮らしていたアカイア市と同じならそれは「外敵の侵入」を意味する。
「あらっ、大変。教会に避難しましょう、ユイちゃんも急いで」
「はい。何が起きたんですか?」
「わからないけど、何かが村に来るみたいね・・・・・・」
アメリアさんはクリアちゃんを抱きかかえ、、私はシエロ君と一緒に手近の水や毛布を持って走った。
ガンガンガンガンガン、ガンガンガンガンガン、むしろ村人の不安を煽るように鐘は鳴り続けている。
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