【etwas】 あること。あるもの。何か。

 おもいではクソみたいな泥団子では作れないな。投げ出してしまいたいけどどうせ、端からゴミ以下のもの、それを捏ねて塗って、神様はひとひとりのいのちすら、うまく操れない。出来損ないだってきっといるはずです。


 ニスのハゲた背広、空に

 /撫で肩に広がる雲

 /萎びた窓際の下を向いて歩く

 /痩せたなにか。

 窓辺から見たひなびた景色の

 つまらない有様よ


 ――或ること。


 おとうさんの、パペットを幼稚園で作って披露した。みんなと同じように色を塗った。今日は青空だった。見たこともない服を着せ、お道具箱から掠め取った、あお。絵の具のチューブをせいいっぱいひねり、花の模様のパレットには糞ができる。それをひとしきりわらったあと黄色いバケツ/銀色の流し、堅く細長い筆で、丁寧に色を付けたのだろう。こうしてなんとなく絵日記になる、チューリップの名札を自分の名を、思い出し、先に滑るように長い滑り台や、山の上にいるゴリラの置物、古いお堂なんかが、みんなみんなぐるぐると巡っては瞬時に消えました。

 そしてときは流れふとしたきっかけで開いた引き出しのそこからでてくるこれが、お友達のお父さんそっくりで、うちの父には何一つ似てません。それで褒められて、ところどころみえる晴天の汚れに、雲と名付けてしまったのだと、憐れでかわいい子供時代を。思いかえすなら。

 あれはなんだと鰯雲、千切れ雲夕暮れ、雷雨、台風の目。おやがいないうちに、我が物顔で親戚がやってきて、楽しかった我が家を侵蝕する。何が悪いのか、どこがダメなのか、子供には何一つ知らされないままの ただ物語にもならない素通りされそなトラウマの一幕でしかない。幸せとは口伝比較、ちっぽけな当たり前とはすぐそこの小さき道に出会う人々や物事からしか得られないこと。

 疑問すら浮かばない脱却の橋も欠片も見えやしない糸口はほつれている。

 それは扉は木枠ガタついた磨りガラス1枚で隔てた我が家の庭、1号棟の端っこにいて。いつもの蜘蛛が木の間から通学路を監視している。

 季節は変わらないのに背丈は伸びていく、モラルも品性もないときには上履きも体操着も取り合いでなにかの反逆のように、投げ捨ててあらせられる。思うようにはいかない者たちの集合体、ただ歩く道は代わり映えのない我が家へのルートでしかない。えいっと走っては怯えて他愛なくわらいあった、坂道とダンボールそり、自由な乗り物たちに手を振る無邪気さよ、格差という不憫も知らないよう庇護されたものたちが、ピンを打つとすれば日常と平穏、起点としてそれら姉妹のこととする。

 くだらねえ過去だと、いみもねえ過去に、今が重なり蓄積していくもの。未来なんて夢はうんざりするちっぽけなしあわせほど、てまねいて、いまも邪魔をしてろくに狂えない。あーだこーだ身になり草臥れた肥やしになること。

 どうせ土に還れば、みななんてそれすらかなわない骨壷のなかみは本当にかのひとだろうか。

 私だけの魂を込める。とすると私はもうとうに死んでいて、また行く先に、私が死んでいるとも気づかずに。心だけがあがいているのか、それとも、思い描いた少しが、活かされ遺されているのか、

 わからないけれど。祈ったり拝んだり縋ったりさまざまのいまの窓なんてどこにあるやら見失い、記憶にある風景を実に見たのはいつだろうか、煙を吐き出す封緘をそっと破るように、取り戻せない時間が巻き戻されていく。

 毎回同じ時間同じ曜日に開かれる扉は軽く、表には忘れられない傷を持つ、それに目を逸らしながら鎖に繋がれた場所までを往復する、金、家族、命、課せられた氏名は貼り付けられなんの使命もなくゼンマイに縛られた、

 私達のメリーゴーランドは、

 天国と地獄を夢に見る、鏡の中のピエロと交う。私は私の時の忠実な奴隷になりたいから、余計なことを今考えさせないでくれと首を狩る。

 必死にシアワセだと思いたいのだから足掻いている。なぜどうしてこうなった? 糸はさらに縺れる、とがむしゃらにもこの口を塞ぐしかない。「自分で選んだ道だ、」くぐり抜けジグザクに躾ている、この思い偶然の必然もない「私だけが歩める道が、」多分枝分かれもせずに〈なだらかに硬化していく〉ように、

撫で付けられたのだと・・・・・・・・

 なぜだろう、てのひらはやわらかくおおきくて、なぜ子らを守ってくれそうな洗礼を授けるのだ。

 今一つなにかを越える。山でも房でもいい、樹海を抜ければ海があり、深遠の源から湧き出る、神秘の儀式を踏んだだけ。仮想空間の外見を絵空事のように見栄え良く、見え透いたメッキだけは派手な方がきっと、お金持ちに見えるのだろうと、必死に飾っていた。

  

 そのすべては偶然と必然に彩られた光と影で結実している。ひとという柵に絡みついた腐肉の味は今日も美味だろうさ。あんたにはそれが美味しそうな毒苹果にでも見えているのかもしれないがね。

 虚飾の母にもなれやしない、置物はいつの間にか逃げ出してしまうように、この手には何も残らないほうがいい。ただ、遠くなった耳が、読めもしない書付を、永遠に紐解けぬように。苦肉にも今日はとても楽しい日だと私に祝福を飢え続ける。


 Ichgenieße mein Leben.

「私は私の人生を楽しんでいる」


2023年2月16日

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