飛翔する


背のファスナーを下げるとキミの内側が夜空と運ばれていった。白檀の匂いがする 渇いた唇が張り付いて、緩んだ手足が抜けていった。先には 崖、後には轍が広がる。ボクは といえば、何処にも見当たらなかったから。多分遅すぎたのかも知れない。早すぎたのかも識れない。


velvetの裸足は詩を紡げない。


濫りに透けはじめた櫻の、金継ぎされた宝玉の中央線には雪が舞っていたのだが。滲ませたぐらい不確かで冬の名残を乱反射したような、美しいばかりの木漏れ日が、溢れ出した/オルゴールは/何処からか、白銀のリボンを游がせていたようだった。


扉を閉じて深呼吸して走り出す瞬間に。すれ違ったのは多分。


私たちは、ことに、静かに致し、またおおらかに広げられる、その、ものやことに対し、何事にもただ胸のうちに入り込むものを、真実と呼びつけたいだけなのです。けれどまだなにも生まれもせず、朝日も昇らず、暗がりにあるという手探りばかりが、ひとつのかたまりをもって、重たく抱いているのですが


なぜ歩みだそうとするのか、なにを欲して手を伸ばすのか、闇雲であるがゆえに希望という無謀が背に翼を授け、恐怖に打ち勝つような、風を孕んでいる。この身ひとつの、『わたし』をどこへ導こうというのか。


思うがまま、戸惑いながら、立ち止まることを知らず、

〈飛翔する。死を目指していると言うのに〉


丁寧な黒を創り出す角膜を保護しています

――きっと、あなたなりの櫛を入れて、駆け巡ることでしょう


〈アメノヒ/のち/はれるや〉

  定休日なし、ご要件は深夜帯の令嬢へお申し付けくださいませ

  お代は苹果酸個分で噛み潰していただければと、存じていますから

  これは往々、可憐な素人が腰を降ろしております


、故。


一橋の向うから女が駆けてくるではありませんか。見知らぬものであったが、夢でも逢えるならと唐草模様も風呂敷包み広げてな、餓者髑髏の櫃にほら、しようもなく捕らえた陽と月を捧げることにしたのです。孕ませるだけの野花が静を繁らせ、呑気にも私が失くなるまで、それは隣に欠けている、影そのものでしたよ。


2023年2月26日

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