慶弔』

臙脂のばかでかい垂れ幕の、そら 煙幕に垂らして、それはもう随分前からずっと、したしたと鳴らして。帯びているのだと思った。伽藍堂では陽と月は宙には上がらず、私のまわりには輪郭ばかりが 塗りつぶされ等しく吃って。土踏まずからスウミリ 浮いた分 お喋りでうんとおしゃまな姿絵を無心したのですから


花火はどうやらうんとはやく 散らしたようだった。起き出したのが遅かったゆえ仕方ないのだが。ノウサギが数匹 路面をはしりぬけるような風があって、悪くないよと考え、ひひと凌いだ。それでもう一眠り。多分季節を廻らせて カノジョとふたり 河川敷で夜桜だよ。水鏡には粋狂なものを見たかのような己が共鳴りにある、


『慶弔』


煤けた黒真珠の眼球がこちらを見ている。肋の浮いたヒトガタの中心から天地の様子まで あらゆるものが刳れたあと。旧式のマグマは ガタがきていたがそのほてりは保たれ ぬるい繭のような人肌を造りあげていたのだと、(彼は云う。)鈍重の刻と共に砂礫に還るよう屍毒を吸い上げる、成熟の祀りに


これは排泄物は雅な精気とじゃれ合い逢瀬を八重に咲かす、年輪を刻み風雪に耐えて、襤褸を出す。まったく不快感が逆流し汚物を撒き散らすようだ。その走馬灯は喀血と糞からできているのだろうよ。なあ、芯に火がつくと感情が溶け出したあとに残った私は何だ。今、シャボン玉はくるくると色を変え魅了して已まないものだったか


風が埃が土煙が砂塵が、なにごともなかった。若葉が揺れ、日も月もやわらかだった。大雨が降ったあとに、流れが干上がって、道ができていた。そこに行列をなして、征く逝く。とぼとぼと、大股で、跳ねるように。風が埃が土煙が砂塵が、かき消さんとするばかりに。草花が燃える、日も月もしじま そのものだった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る