燦然のクレバス

 天使といえばキミだ。従事に磔たものを言う、そう濡羽色の頭に金の輪を描いて大きく白いつばさを置く可憐な少女だと思っては? 

 違うね。今はいつどきだと? バカバカしい今すぐそのシグナルを外し給え、そのカイナを停めてくれ、ひどく煩いばかりだ。ぼんぼり・かぐら・ハヤシ音色。どいつもこいつも浮かれてやがる。

 そうさ外をみな。 灰だ炎だ白銀だ 欠けた月 破れた陽、炎症を喰い止めた/ヒクイドリのハネペンで絵空事を吟詠する「艶笑譚がっ。」ハハッ、これまた、欠片だけを惹き攣れ襤褸屑じゃないか。

 あわいそうな枯芒に鋒鋩 昴を宿してはその籠に震えているだけじゃないか。

 星星の舟にあって、たくさんのちいさきもの、なんとも可哀想だが……。

 ああ指揮者はもういない演者はキミだけだ、緞帳の奥に紛れた季節も死んだ。

 天を仰いだばかりの冷たい風が一等、微睡むように雑魚寝する、木枯らしが吹き荒ぶ霜が下りるころに燈された明かりに。

 莫迦に溺れた満月の、影絵になにを隠そうとしても無駄なのさ。 埋没した懐に抱かれ殊更示そうともこの瞳はなにも見えちゃあいない。なんならキミ自身も今にして過去、未来をとびこえ、だれひとり追いつけない永劫に犯されたまま。

 狂っちまったんだよ。

 私が弾いた平行線に縺れた糸が縒れて撓んだ痕、元には戻らない歪なみちにすれ違ったとしても、ほらこうして、敢えて絡まり合っては、(見るけれどだけどね。)放射した光を集めてももう結して熟まれることのない真新しいだけのキミが、癇癪をおこすようにほころびが繕われる。

 そのものがたりがざくざくと膨れては嵩張る苑、今今が膨張して破裂する瞬間の美しさを書き留めているという、キミらしいかな燦然と赫く。

 腫れ物の傷が壊れては、三千のクレパスで書ききれないほどの入り組んだ心の綴じ目から差し込む朝日のような心地で、雪解けることのないふたりの深い溝に、一瞬一瞬を瞬かせては。それはそれは眩むほど儚く昏く。

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