第35話 喜ぶ者、憎む者
- 墓地 -
そこに佇む金髪の青年が一人いた
何処かで見たその青年
あんなに笑顔が眩しかったのに
明るかったのに
……大切な人と【永遠に】愛し合っていたのに
明るかった笑顔は暗く、憎悪に包まれている
悔しさ、憎しみが握りこぶしを大きくギリギリ鳴らせ、空を飛ぶ鳥にも届くような歯ぎしりの音がそこだけを暗闇に包み込む
「…………許さんぞ管理者ども」
「よくも…………ヘレンを」
- 打って変わって依頼中のレイ -
「リンゴーンのお水やり終わりました!!」
レイの笑顔におう!!と大きくがっはっはと笑う農夫の旦那、ありがとよ!!とレイの頭をポンポン叩く
「いっつもありがとなあ!!レイちゃんよ!!」
「えへへ」
いや~それほどでもお~と照れるレイ
そんなレイを見て農夫の旦那も勇ましく大きく笑う
「君達管理者が時を創り直してくれたお陰でリンゴーンも時間が進みようやく育つようになったからよお!! ホントに感謝してるぜえ!!
これで作物もよく育つってもんだあ!!!!」
ありがとなあ!と掌にお礼の賞金と大量のリンゴーンを貰い慌てて掴むレイ
レイも笑顔で返す
「はい!! 時間がないと植物も育ちませんから!!!!!」
時が新たに生まれ、時間が進んだ365の管理界
そのお陰で育たなかった植物はすくすく育ち
人は朝と夜の区別が出来るようになり、正しい時間に起き、正しい時間に空腹になり、正しい時間に眠る事が出来るようになった
周りからの歓声の声、レイはそれが嬉しかった
そんなウキウキ歩いてるレイの前に歩いている人影、その影にレイは大きく手を振る
「おーい!!イチさん!!」
その声に気付いたイチはレイの方を向く
けど…何処がイチは疲れているような顔をしていた
「………レイ」
- 二人で歩きながら散歩をする -
「えっへへへ~やっぱり時間が進むのは素晴らしい事ですね!!」
ウキウキ歩くレイの横でイチは静かに「…そうだな」と苦笑い
暫く静かにした後、途中で止まり「なあレイ」と彼女の方を振り向くイチ
「へ?なんですか?急に止まって」
「あっちの方は今は近づくなよ……」
指差した方向はある時、レイがまだ365に来て間もない頃に来た大きな豪邸、そこでしたことをレイは覚えている
「あ!! 確かエリックさんとヘレンさんが仲良く暮らしているお屋敷でしたよね!!!!」
愛し合い結婚をした二人
お二人とも一緒に永遠に愛を誓ってラブラブですよねえ~良いなあと1人自分の世界に入るレイ
「それがどうかしたんですか?
なんで駄目なんです?」
「えっとな……」
言わなきゃ駄目か…しかし言った時レイはどう思う?と考え込むイチ
そこで咄嗟についた言葉は単純なこれだった
「何て言うか……お前が見たくないもんがあるから」
その言葉にうええええええ!!!!?と目を丸くして驚くレイ
「虫さんですか!?
芋虫さんなんですか!!!!!?」
あわわわと慌てるレイに落ち着け!!と宥めるイチ
「いや…そんなもんよりももっと…とにかく今はやめとけよ」
そう言いながら去るイチ
去り際に何かを呟いた気がする
「お前が……立ち直れなくならないようにな」
そういって1人レイを置いて去ってしまった
「………どういうこと?」
----------------------
数時間後
レイの家の扉をノックするイチ、そこで寝ぼけていたジューサが扉を開ける
「イチ……どうしたんだ?」
「………………」
「レイが危ない」
----- 同じくしてレイ -----
「うーん」
腕を組んで悩んでいた、何せ次の依頼主は【エリック】なのだから
「近寄るなって言われてもエリックさんなんだよね依頼主、場所もこの豪邸の中だし」
イチの忠告に素直に従うか
それとも依頼主のエリックの頼みを果たすか
思考を巡りに巡らせるレイ、そして「それでも」答えに辿り着く
「- 行こう、例え何が起きたって依頼主の仕事を果たすのが管理者の仕事
困ってる人は助けないと!!」
そう決め、或いは自分に言い聞かせ、エリックの豪邸に入っていった
- エリックの屋敷内 -
大きな扉は何故か鍵が掛かっておらず開くようになっていた
「?鍵の閉め忘れかな?」と不思議に思うもお邪魔しま-すと屋敷の中に入るレイ
「……エリックさん?」
辺りをキョロキョロ見回すが人の気配が一向に無い、それどころか屋敷の中も真っ暗でまるで廃墟のような雰囲気を醸し出していた
「エリックさーん!!!!」
大きな声で叫ぶがエリックの気配は全く無くあれえ?と首を傾げるレイ
「お出掛けしてるのかな?」
ひょっとしたら行き違いかもと考えるが、でも奥にいるかもしれないと中央の部屋へ巨大な階段を登り進む
奥の部屋の扉を開ける
「すみません、入りますよ……」
と謝りながら入るレイ
そこには信じられない光景があった
「!!!!!!?何これ!!!!!」
その部屋は………辺り一面【墓地】
だったのだ
「…………ひっ」
嫌な気配、震える体
何が起きてるのかわからない恐怖する顔の頬に冷たい汗が上からゆっくりと流れる
「こんなの…こんなの前には」
無かった
おかしい
何で!?
不安と恐怖に狩られながらもレイは墓地にたった無数の墓標1つ1つを調べる
「……なん……で…⁉️」
それを見たレイは悪寒を感じ反射的に「う!?うわあああああああああああああああああああああああ!!!!!」
と驚愕し扉の前に素早く逃げる!!
- その墓標全ての名前に
ヘレン
ヘレン
ヘレン
ヘレン
ヘレン
ヘレン
ヘレン
ヘレン
ヘレン
ヘレン
- 墓標の全てにヘレンと書いてあったのだ
「ヘレンさんって…エリックさんの恋人の……?」
足が震えを止まない
何で!?どうして!?と頭を抱えて混乱するレイ
死んだ!?
エリックさんと前まであんなに幸せそうだったのに
お互いが愛し合っていたのに
何で!!!!!!?
わからない、わからないよとその場でしゃがむレイ
すると一番斜め右上に1つ、たくさんのヘレンの墓よりも無造作に雑に作られた墓が立っていた
思い足取りでそこへ歩くレイ
その墓には
「………名前がない?」
一体何故? 誰がこのお墓に入るの?
と考え込むレイ
すると背後から冷たい声
「そこにはお前達【管理者】が入るんだよ」
「!?」
ズブシュッ
「!!!!!!?」
気づいた時には、振り向こうとした時には遅かった
「……あ………が………?」
レイの背後に立つ憎悪の影
背中から腹の前まで伝わる冷たい感触
「が……う……?」
ゴフッと血が口から垂れる
恐る恐る目を下に向けるレイ
そこに移ったのは
冷たいナイフの刃先が自分の胸を貫いていたのがわかった
「ふん!!」
「あうっ!!」
ナイフを引きもどし背中を蹴りレイは倒される!!
「あっ!! あああああああ……」
ゴロゴロと転がり回るレイ
ぼやける視線の先には
血塗られたナイフを左手に持ったエリックが冷たさと憎しみの表情を浮かべて立っていた
「お前達のせいで!!」
「お前の達のせいで!!」
「お前の達のせいでええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ぐしゅっ!!
ぐしゅっ!!
とレイの腹部を何度も何度も何度も何度も滅多刺しにするエリック
「がっ!? うあああああああああ!!!!!」
刺される度に吐血するレイ
「はぁはぁ……」
刺していたナイフを降ろすエリック
しかし倒れるレイを怒りの眼差しで睨み付けている
「エリックさん……なん……で…?」
その言葉に怒りが増した
「何でだ……?何でだだとおおおおおおお!!!!!!!」
また思い切りナイフをレイに突き刺す
「いやあああああああああああああ!!!!!」
吐血と刺された腹部で体中が血の海になるレイ
純白な真っ白な幽霊の姿が……真っ赤に染まった
刺された痛みと混乱する思考
明るさを失い薄くなる視界を力無くエリックの方に向ける
「…………お前がお前達が殺したんだ」
ナイフを降ろし倒れるレイに大声で叫ぶ
「お前達が殺したんだ
エリックをな!!!!!!!!!」
「!!!!!!!」
その言葉に力無き瞳が大きく揺れ動く
「そんな……どういう……」
「とぼけるなあ!!
お前達が【時を戻したせいで】
エリックは病気が進み
【病死】したあああああああ!!!!!」
…………………
え
ヘレンさんが病死?
病気を持っていた
ああ…そうか
薄れる意識の中でレイは理解した
時を戻さず二人で永遠に愛し合っていたい
以前言っていた言葉をようやく理解した
それはのろけでも我が儘でもなく
時が止まれば病気も進むことはない
だから愛する人が病気で死ぬこともない
でも秒を新しく創った事で
時が戻った事で
彼女は病気が進み
死んだ
365は夢の世界ではない
確かにそこに死が存在する世界なのだ
迂闊だった
浮かれていた
時が戻った事でみんな平穏な日常が戻る、皆が幸せになる、ずっとその考えしか無かった
忘れていたのだ
【時が戻る事を望まない人達もいるという気持ち】
を
きっとエリックさんだけではない
明日寿命で無くなる運命の人は時が進んだせいで寿命で死んで
明日愛する人と別れる運命の人は時が進んだせいで愛する人と別れ
明日殺される運命の人は時が進んだせいで逃げる術がなく殺される確定になり死んで
明日人を殺す運命の人は時が進んだせいで本当に人を殺して犯罪者となった
時が進まず永遠の今日だったらずっと今日中に解決したかも知れないのに
全部レイちゃんのせいです
あーあ
「あっあっあっあっ…………」
悶える意識の中、自分の罪に飲まれ声になら無い声をあげるレイ
エリックに足を開かれその身も怪我してやると両腕を捕まれ入れられたくない物を入れられ犯されていた
「どうだ!? 苦しいか?…はぁはぁ」
もしヘレンさんが生きていたらヘレンさんとずっと行為も出来ていた
ナイフで貫かれ、血塗れになり犯されている私はただの入られている器
いや、犯されている感触なんか伝わらなかった
そんなことよりも自分がヘレンさんを…この場にいない時が進むことを望まない人達の願いを壊したのだから
それはこれからも時が進み続けることで終わることはない
明日何かを得る人は得ると同時に明日何かを失う人は失う
いや、明日じゃないな、今この後1秒
たった1秒だけで危ないんだ
そんなこと……考えてもいなかった
「……め……なさい」
「……あぁ?」
光を完全に失い闇に包まれた瞳から涙が流れる
もうどうしようもない現実
自分の起こしてしまった取り返しのつかない罪圧巻
それは重くレイにのし掛かった
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…!!」
涙を流し謝るレイ、それさえもエリックに言っているのか、自分の知らないところで時が進んで不幸になった人達に言っているのかさえもう分からずに
「………!!」
その言葉がエリックのレイの両腕を押さえる力が一層強くなる
「…わかったような口を聞くなあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「あっ!?あっ!!ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
まるで止めを刺すようにレイを犯すエリックの体が激しくなる
そして力無く意識を失ったレイの腕を放し懐に置いていたナイフを持ちレイに突き刺そうとする!!
「お前も……墓に入れえええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
レイの胸に刃先が近づく寸前だった!!
ズブシュッ!!
「………が!?」
背後から何者かに貫かれた
それは自分がレイを貫いた時と同じように
「てめーがな」
エリックの背中を破魔矢で貫いた時青年
そう、イチだ
レイの前に倒れこもうとするエリックを「そっち倒れんじゃねえ気持ちわりい!!」
と反対に投げるイチ
「あ…ああ……」
エリックは血を吐きながらずるずると這いづりまわる、その行き先は……自分が立てたたくさんのヘレンの墓
どこにほんとの遺骨を埋めたかも分からずに
「ああ……ヘレン……
今……行くよ」
宛もなく掴んだヘレンの墓の前でまるで抱き抱えるように……エリックは目を閉じた
それを遠くで見ていたイチは冷たい目で囁く
「……そこにヘレンの骨はねーよ、辿り着く前に分かっていたけどな
依存しすぎて作りすぎだバーカ」
そう呟くイチの背後を慌ただしく走る青年の姿
「レイ!!!!!」
ジューサだ
「レイ!!しっかりしろ!!おいレイ!!
頼む、返事をしてくれレイ!!レイ!!!!!」
ぺちぺちとレイの頬をはたくが反応がない
目を開けたまま意識を失っているようだ
それを見ていたイチ、ジューサの傍に行き慌てるジューサを安堵させる
「大丈夫だジューサ
【新しく始まる】」
「え? うわあ!?」
その瞬間レイの体が眩しく光に包まれる!!
そして光は消え
辺り一面血の海だったレイの体は綺麗に元通りになり、犯されていた体もどうやら治ったようであり、 開けていた暗闇の目も、どうやら落ち着いて瞑ったようだ
スーウ、スーウとレイの安定した呼吸が聞こえる
「!?レイ………レイ!!!!!」
ガバッと抱きつくジューサ、涙を流し「良かった…良かった」と何度も呟いた
「しかしこれは一体どういう事なんだ」と考えるジューサ
イチが頬をかきながらあーとそれに答える
「どうやらレイの場合、自分の感情が極限を迎えると【新しく始まってしまう】らしいな」
「?それは一体」とジューサ
それに何で君は先の事
が分かってしまうんだとイチに聞き迫る
「いやー、それはまあ【イチ】だからな
……それより俺に詳しい人なら知ってるけどな」
と伝えるイチ、それにジューサは大きく反応して「会わせてくれ!!」と頼む
「ま、ずっと隠していても仕方ねーしな」
「【結局ジューサにも会わせる未来は変わんねーか】」
---そこはハカセの住む小屋だった---
「ここってハカセの?」
「ああ」
眠ったレイを家に送り寝かせた後、二人はハカセの小屋に着いた
そういって小屋の扉をノックするイチ
すると扉が反応して開き始める
「入るぜ」
部屋に入るともぬけの殻、ナクヨとミナゴはいないようだ
「誰もいないじゃないか」
そういうジューサにイチは嫌々と
「相手は何てったって【ハカセ】だぜ?」
すると巻きストーブが人の気配に反応したのか、まるで来るのを待っていたかのように右にずれる
「!!これって」
「そう、地下通路」
地下の階段を降りる二人
遠くからピアノの音が聞こえる
奥の部屋から聞こえるピアノの音
「入るぜ」
とイチが扉を開ける
「♪♪♪♪♪♪おや?」
二人の気配に気づいたか、最後に両手でピアノをダーン!!!!!と大きく鳴らし振り向く仮面の男
ハカセだ
「君達が来るのは分かっていたよイチ、いや、来る未来だったからか」
呆れ顔で答えるイチ
「うるせえ、つかそろそろ仮面外して正々堂々顔を晒したらどうだよ、いつまで正体を隠すつもりだよ」
「正体?なんとの事だ?」
と二人の会話についていけないジューサ
それを見計らったようにハカセは仮面に手をかける
「そうだね、君達二人の前では取っても大丈夫だろうね」
そういってゆっくりと仮面を外した
「!!!!!その顔は……!?」
その正体を見てジューサは困惑する
「…さあ、全部教えて貰おうか!!
何でレイがあの力に覚醒したか
結局あんたが365で何をしたいか
その後ろのカーテンに…何を隠しているか
ハカセ……
いや
【綺羅咲起源(きらさききげん)】
!!!!!!!!!」
「………」
「ふっ」
続く
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