第29話 僕はハチの飼い主

………誰?




レイが覚醒して力を使っている中、時止めの狭間に閉じ込められた1人の青年



右目を帽子の唾で隠した彼はまるで【左目を見られたくない】と訴えているようにも見える






青年の問いに、答える少女の声






私はレイ…今の0月の管理者



青年に声を伝えていたのは新たな秒を作りながら思念で会話していたレイだった




レイは青年に事情を伝える







「なら……僕も!!」





ヒコが戻ったのならば自分もと青年




しかしレイは首を横にふる






「ごめんなさい……あなたは【普通の人間】唯一の365の影響を受けてない人だから」




青年はなんと365の管理界にいても姿がそのままなのだ!!




だからあなたを巻き込む訳にはいかないと





青年はその言葉に目を瞑り拳を震わせていたが





「……1つだけ聞かせて欲しい」




うん、と頷くレイ






「ハチは……僕の大事な家族はちゃんと元気でいる?」





ハチ




そう、彼こそがハチの飼い主なのだ



ハチだけが365の影響を受けてあの姿になったのだろう、青年には影響が何かの表紙で無かったらしい





レイは青年の問いに優しく微笑み伝える





「うん……元気でしっかりやってるよ」





「…………!!」





その言葉に青年はホッと安堵する






「ならよかった……事が全て終わるまで大人しくしてるよ」





その言葉にレイも安心し、思想を新しい秒に専念させる





「ありがとう」











そして全てが光に包まれ





 






「大丈夫……新しい秒の世界できっと一緒だから



だから今は待っててね











【長政】君」









----------------------



そして新しい秒が動き出す平和になった365の管理界






「ワン!!ワン!!ワン!!」




テッテッテとレイの所に向かっていく一匹の犬ハチ




「あー!!ハチさんおはようございます…むにゃむにゃ」




おはようと言いながら自分は眠そうなレイ




頭を撫でてあげるとクゥーンと満更でもなく嬉しそうに尻尾を振っていた






「ははは、僕の知らない所でこんなに懐いてるなんてね」




「あ」



とレイが振り向くと彼女の方に歩いてくる右目を帽子の唾で隠した青年





「レイちゃんおはよう~♪」



やあと手をだす





「おはようございます











【八社野長政(やしゃのながまさ)さん…!!」








  - カフェ・マチネ -


秒が戻ったことの記念に作られたその名の通り朝~昼のみ営業の新しいカフェである。


ここはペット同伴OKなので長政も良く利用してるのだ



長政とレイは席に座りハチをカフェの庭で遊ばせコーヒーを嗜んでいた





「へえ~、レイちゃんって幽霊なのに飲食出来るんだねえ~」





「まあ、死んでるわけではないので」




自分は365の影響でこの姿になったと笑うレイ




「そういえば長政さんはホントに管理界の影響を受けないんですね」




コーヒーを啜りながら長政はレイに答える




「うん? まあ、魂抜かれたのはあくまで現実世界だったし」




長政は自分で望んだ訳ではなくあくまでテンに斬られて時止めの狭間に閉じ込められた



そして特に365に来るような悩みも抱えていないのが原因だろう、管理界の住人は誰しもが心に不安や悩みを抱えてそれに適用した姿が変わることが多い、更には管理者達は自分に与えられた月の行事をイメージした姿になる。


しかし長政にはそれはない、それが彼のメリットでもある。



影響を受けたのは長政を救いたいと思った。もしかしたらあの世にいるかもしれないと思ったハチなのだから





そしてもっと単純に言うと









【12ヶ月の何処の管理者でもない】



からが一番大きいだろう


  



「レイちゃんは因みに何で幽霊に?」




「私ですか?」




首を傾げてレイに聞く長政



 



「えーと……



【運動能力0(レイ)】


【テストはいつも0(レイ)点】


【容姿は【綺(麗(レイ))】」




いろんな【レイ】が幽霊の【レイ】とかけてこの姿になったんですよ~」





「綺麗って…自分でいうんだ」



たははと長政




「後はそう……次の日が誕生日でワクワクしてたらこの管理界に来て………?」





あれ?とレイ




「どうしたの?」




腕を抱えて首を傾げるレイに長政が声を掛ける




「秒…って確か元に戻りましたよね?」



「うん」




「てことは時間進んでますよね」




「うん」





「あ…………💧」

















「………誕生日3日過ぎたああああああああああああああああああああああ!!!!!」




その声に「はっ💧」と気付いた長政




その通り、現実通りいけばレイの誕生日はもう3日前だったのだ!!



時の進まなかった365に自然と慣れていて気付かなかったのである!!





「あ……えーと」




口をパクパクしてるレイに長政が申し訳無さそうに声をかける






「その………」










「おめでとう💧」




「あ、ありがとうございます💧」






それから暫くしてコーヒーを飲み干した二人はハチを連れて散歩に出かけた





ハッハッハッと二人にリードを引かれて喜ぶハチ



しかしうーんと長政





「どうしました?」




レイの問いに妙だなあという顔つきで長政が答える




「いやねえ、何でレイちゃん【誕生日前に365に来たんだろう】って」





「………!!」




その言葉に目を大きく見開くレイ



確かにと自分でもそれは気付いてなかったのだ




「うーんでも」



【自分のこの姿と誕生日は関係ない】



レイはそう思った




自分が幽霊の姿なのは色々と0だから、幽霊の姿の自分と誕生日では辻褄が合わないのだ




困った笑みを浮かべながらレイは長政に伝える



「ひょっとしたら…ただの偶然だったかもしれませんね」





「偶然かあ~そっか」





そこから二人は暫く口を閉ざしながらハチと散歩する





しかしそんな中でレイは考えていた






「(……けど別に)」





運動能力が0だからって


テストがいつも0点だからって


容姿が綺麗だからって







「(【特に0からやり直したいとは思ってなかった】けどなあ………)」








- 歩いて約15分後 -



二人は夕日の見える河川敷に来た




「わあ、綺麗!!」



時が進み夕方が訪れた河川敷


水面に移る夕日が反射してとても映える




そんな目をキラキラさせるレイを見てふふふと長政も自慢げに話す




「中々良いでしょ、僕とハチのお気に入りスポット」




長政の足に顔をくりくりするハチの頭を撫でながらどや顔で答える長政




「犬の散歩は朝の印象が多いけど、この夕日を見るために夕方の散歩も中々乙なものだよ♪」




「ワン!!ワン!!」




(そうだ!!そうだ!!)とハチ




夕日を見ながらうっとりする表情をするレイも答える





「うん」









「……そうだね」




そのレイを暫く見てから長政が笑顔で聞く





「……よし、レイちゃん」




「はい?」





「水辺って霊が来やすいしその分あの世とも近いんだよ」




「!!ああ」




長政がしたいことを察してナイスアイディアとレイ





「あの世散歩!! 良いですね!!」




「ワオオオオオオオオン!!!!!」



と二人に提案にハチもテンションが上がる




そしてあの世へワープした!!








  - あの世 - 



「いやぁ~こうやってあの世に自由自在に行けるのは幽霊の姿と霊犬のお陰だね~」




レイは生きてるが幽霊のイメージを持ってるので勿論いけるが長政も霊犬であるハチに捕まればあの世に行けるようだ



つまりハチに捕まれば長政だけでなく誰でも行けるようだ




雲の上を歩くハチと二人




「不思議な感じだよねえレイちゃん」



笑顔でレイの方を振り向く長政




しかしレイは俯いている




「……レイちゃん?」




その声に恐る恐るレイは頭を上げて長政の方を見る




「あ…あの…帽子」



「帽子…あ、ワープした風圧で飛んじゃったか」




「あ!!じゃなくて……その…帽子が無くなって」




声を震えあげながら長政の方を方々と指を指す


その方向は……帽子の唾で隠した彼の左目、帽子は風圧で飛んだ






「………【左目無い】です」




そう、無いのだ


左目が




まるで黒い渦を巻いたような穴の空いた漆黒の空間、それでも彼は見られちゃったかとてへへと笑う




「いやあ、昔拉致されちゃった事があってね」




「!!」




- 彼は話してくれた -


彼は七歳の頃テロリストに拉致されたのだ



それでも恐れ知らずな長政は暴れに暴れテロリスト達に牙を向き必死に戦った



【彼に恐怖心は存在しない】のだ




しかしその長政に頭に来たテロリスト達




「生意気な餓鬼め!!」






ズドオオオオン!!!!






1人の男が放った銃声



それが長政の…幼き少年だった彼の左目を奪ったのだ









「………ぎゃあああああああああああ!!!!!」



予想を遥かに上回る激痛、止まらない血、両手で抑えゴロゴロ転がり回る




そんな時、その悲鳴を聞いて駆けつけてくれた




「……長政ああああああああ!!!!!」




トラックのコンテナを突き破り現れたのは長政の臭いを辿りハチに案内された長政の兄【頼秀(よりひで)】だった




彼は元軍人だ、とても身体能力武術に長けてテロリスト達をコテンパンにやっつけてくれたのだ!!




その後、入院した長政



戻らない左目のあった黒い穴は包帯でグルグル巻きになっている




その時、お見舞いに来てくれた兄、頼秀が「これで隠すと良い」とプレゼントをくれたのが長政の被った帽子なのだ



それに入院中に誕生日があったのでバースデープレゼントの意味もあったのだろう



優しい兄に長政もまさか左目を失ったショックなんて無いように笑顔で答える






「えへへ



ありがとう、兄さん!!!!」







----------------------




「そんなことが……」




胸に左手を当てて心配するレイ



彼の帽子は風圧で飛んだ時、咄嗟に彼女が掴んでいてくれた




「でもまあ、そんなの過去の事だけどね」



もうとっくに気にしてないよとレイが掴んでくれた帽子を受け取り再び被る長政




「僕が自分の左目がない部分が嫌だというよりも周りがそれを見てギャー!!ワ-!!って騒ぐ方が困らせちゃうからそれで隠してる、包帯も過去の事だし取っちゃったしね」




彼は言う



自分には落ち込むとか恐怖心が存在しない






「それに」




ハチの頭を撫でる長政



きゅうううんとハチも喜んでる




「見えないところはハチが見てくれるから」




その言葉にレイも受け入れて頷く





「そっか……」




「何てね、変な奴だよね~僕


目を奪われて落ち込まないなんて」



たははと困ったように笑う長政




しかしレイもううんと首を横に振り




「例え左目が無くっても





感情が何処か欠けてても









長政さんは立派なハチさんの主です」







「…………!!」







その言葉に長政も安堵する






「そっか」










「ありがとう」




けど良いなあとレイ




「優しいお兄ちゃんがいるんですね」




「うん、僕の自慢の世界一かっこいい兄さんだよ!!」




兄の話に触れた途端、目がキラキラする長政




「(本当にお兄ちゃんが大好きなんだ!!可愛い!!)」




そういえばと長政




「レイちゃんにはお兄さんはいるの?」




「あっ」




頷くレイ、自分にも兄がいるけど会えてない


本当だったらレイの誕生日の日に帰ってお祝いをしてくれる筈だったと長政に説明する





「とても大人びててクールで大好きなお兄ちゃん何です!! 名前は確かえーと…」







あれ?




可笑しいな





自分の兄の名前なのに【咄嗟に思い出せない】




暫くして「あっ!!」と思い出す








「【起源!!煌羅咲起源(きらさききげん)】って言います!!!!!」




「ふーん」





あの世の空を見上げながら二人は語り合う





「会えると良いね、大好きなお兄ちゃんに」




「はい」




その言葉にレイも空を見ながら微笑んで答える







「きっと、





ううん



絶対に会えますよ」





それから二人はハチと共にあの世をたくさん散歩し365に戻りお互い手を振り別れた




長政とハチを見送った後、振っていた手を下ろし、レイは物思いに呟く





「……お兄ちゃんか」






 - レイの家 -




「へえ、それじゃ今日の1日で随分長政と仲良くなれたんだね」




レイの淹れたお茶を飲みながらレイに聞くジューサ




「うん!!ハチさんもとても嬉しそうだったよ!!」




そのレイの表情を見てジューサも微笑む





「そっか、僕はまだあまり面識が無いけど優しい青年のようだね」





「うん!!」




レイも大きく笑い




「何処か欠けててもそんなの事は関係ない



大切なパートナー(ハチ)がいて



大好きなお兄さん(頼秀)がいて




私達のような特殊な力が無くても」












「とっても素敵な普通の人なんだ!!!!!」






レイは暖かい気持ちで温かい淹れたてのホットミルクを口に付けた





   - 続く -















































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