第17話 働くあなたに感謝を

「毎度ありがとうございました-!!」



大きな声で礼をいい走り去る青年がいる



高原を抜けあたふたあたふたと走る銀髪にメガネの青年、彼の名は【ジュイチ】【11月の管理者】である。




「次はこちらのお宅かあ、はぁ」



ため息をつきながら住所が書いてある紙を見るジュイチ、どうやら仕事で配達をしているらしい




いや、配達だけではない



実は彼【常に働いている】のだ



他にもたくさんの仕事をしていて休みなどいず知れず、彼ぞまさしく【勤労】というべきか





「(はあ、時が止まってから【勤労感謝】もなくなっちゃったし、感謝もされずにただこうして僕は働いてばっかだなあ…)」



愚痴を言いながら走るジュイチ、その時目が眩んで





「…-あれ?」




バタッ





倒れた





「はあ、働き尽くしで完全に疲労だよお、…確かに僕は元の世界でニートだったし面接落ちまくるしで【そろそろ働けるようになりたい】って願って365に来たけど…まさかこんなに毎日毎日働くことになるなんてね」




ジュイチは倒れながら目を瞑る




「ああ…我が儘なのはわかってるけど」











「たまには休みが欲しい-!!



勤労感謝された-い!!




それだけでしあわせ-…ふあぁ、スゥー」




そう叫んだジュイチの意識は完全に途切れ、等々眠りについたようだ











- - - -



------------さん








「ジュイチさん!」




「ハッ!!」




目を覚ますとそこはレイの家、目を開いた先には心配そうに見つめるレイとジューサがいた




「良かった!!倒れてたからビックリしました…」




「ここは…そうか、君達が



……あっ!!ヤバイ!!」




次の仕事が!!と無理矢理起きようとするジュイチ、それを二人が止める




「駄目ですよ!!働きすぎ!!」



「今はゆっくり休んでいるんだ、仕事は変わりに僕達が引き受ける」




「ううん……すまない、はぁ」




再び体を寝かすジュイチ



「…どうしてそんなに働くんですか?」




レイが心配そうに見つめジュイチに聞く






「…僕は元の世界でニートだったんだ」



「え?」





「いわゆる【引きこもり】って奴でね、オタク趣味でずっと閉じこもってた、けど親が倒れてからはそろそろヤバイと思ってね、焦って慌てて色んな所へ面接に行ったけど付けが回ってきたのか全部不合格…もう自暴自棄になって「なんでもいいから生きるのに困らないぐらい働かせてくれー!!」って願った時、365に来たんだ」





「…けど仕事が貰えたら仕事ばかりの生活になってしまったと」



ジュイチは頷く




「僕の能力は【勤労】らしくてね、常に働いてなきゃいけないみたいなんだ…でも11月って【勤労感謝の日】なのに誰の役に立っても何の感謝もされない…仕方ないよね、今までニートだった人間が自分の我が儘で仕事くれくれ言っていざ働いたら休む暇もなく、助けた大人達に感謝もされず、挙げ句の果てに「働いてるんだから礼ぐらい言ってよ!!」なんて自分勝手にも程があるよね…はは」



願ってた理想と叶った現実に落ち込むジュイチ



しばらく無言だったジューサが口を開く





「…ジュイチ、今は時が止まってる


ってことはいつだって【七五三】がある」





「え?」





ジューサはクスッと笑い







「体が回復したら【七五三の仕事】をしたらどうだい?、何も【礼を言われるのが大人じゃなきゃいけない】なんて事はないと思うんだ



【子供の為に】働いてはどうだろう」







「七五三…!!」










----------------------


ジュイチが残してある仕事をレイとジューサで片付け、ジュイチが完全に回復したのを見かけ神社に来た



- 子祈(こいのり)の神社 -



この神社は【子守りの神様が子供の祈りを叶えてくれる子供の為の神社】で有名である




「うわ…凄い人だかり」



その子供の数に仰天するジュイチ、時が止まって七五三まで待たなくて良くなったので参拝しに来ている子供達がたくさん来ている




「…ジューサ、子供も365にこんな来るんだね」



正直レイは子供は来ない、365に来る程悩んでることはないのだろうと甘く見ていた



「そうだね、悩むのは大人も子供も変わらないから」





「あ!レイお姉ちゃんとジューサお兄ちゃんだ!」




そんな話をしていた時、一人の少年が駆け寄ってくる





「こんにちは~七五三に来たの?」



子供に目線を合わせながらしゃがんでレイは優しく尋ねる





「うん!! いっつも混んでたけど今回はそんなに人がいないから!!」





「そっか……ねえ、1つ聞いて言い?」




「うん?」





悲しそうな、それでいて慈しむような眼差しでレイは少年に聞く





「【お父さん、お母さんと離れて】365に来たのって…寂しくないかな?」





そう、あくまで365に来たのは幼い子供だけ、親とは離れていることになる





それでも少年は首を横に降り




「ううん!! 寂しくないよ!!


おばさんが面倒見てくれるし、お友達もいっぱい出来たもん!!」





親と離れた変わりに、親代わりに近所の人達がここに来た子供達の面倒を見てくれているのだ





その答えをレイは優しく微笑む





「…そっか」




そしてレイは話を切り替えた





「取り敢えず七五三の写真はこの人…ジュイチおじさんが取ってくれるから後で奥の写真室に来てね」




レイはジュイチに目を合わせて少年をそちらの方向へ向かせる





「お!?おじさん!?

いや、僕確かに25歳だけど…おじさん、なのかなあ…ってか僕の仕事って子供の写真撮影なのか!!」



色々言われてビックリしているジュイチにジューサも肩に手を当て励ます




「頑張れよジュイチ、これがうまく出来たら子供達の人気者だぞ?」




「うん!?うん…けどなあ…元引きこもりに子供の相手が出来るかどうか…」




あたふた悩んでいるジュイチ、すると少年がとてとてとジュイチの前に来て






「…ジュイチおじさん!!」



「ひゃ!?ひゃい!!」




そして満面の笑みで




「宜しくお願いします!!」




「……!!」




その姿に顔を赤らめながら慌ててジュイチも頷く





「う、うん…頑張るよ」





「ふふっ」


「シャイだね」



その光景にレイとジューサもニコニコ微笑んでいた






そして準備を整え仕事の開始



正直ジュイチは…【子供を舐めていた】






「わー!!」



「わー!!撮影中に走らないで!!」





「おんぶ~!」



「重い重い…!!」







「うえええええん、ちっち漏らしたあ~」




「わあああああああああ!!!!!」






なんやかんやあってそれなりに仕事を進めたけども





「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ…」




「あわわジュイチさん…💦」





子供の無敵さにバテバテだ



「これじゃ体力回復した意味ないね…さて、どうする?辛いならやめてもいいけど」




倒れているジュイチに問うジューサ




しかしジュイチは






「……いや、それはない



自分で働くって決めたんだ」





倒れている体を起こし強い眼差しで答える






「最後まで…やりとおすさ!!」






「……」






「……フッ」




ジューサも静かに微笑み承知した







「さあ来い子供達!!



僕が相手だあああああああああ!!!!!」





「いやいや怪獣ごっこじゃないんだから💧」






「とりゃー!!」




「ぐえっ」




「きゃあああああジュイチさああああん!!!!!」




知らない子供に飛び膝蹴りを喰らった








そして何とか体力を温存しつつ最後まで仕事をやり遂げた





「ああ~疲れたあ」



慣れない子供達相手でクタクタのジュイチ




「お疲れ様、どうだい?仕事の感想は」




「まさか子供がこんなにきつい相手だとは思わなかったよ…はあ、果たして続けていけるか」




ため息を付きながらガクッと背中を曲げるジュイチ、そんな時トントンと扉のノック音が聞こえる





「私が出てきます


は~い」




レイが寄り扉をあける、するとそこには





「あっ」





「さっきはありがとうございました!!!!!」



七五三の写真を撮った子供達だった


話によるとジュイチに用があるらしい




「ジュイチさーん!!さっきの子達ですよ~!!」



ええ!?とレイの言葉に驚くジュイチ、恐る恐る子供達の前に立つ





「えっと~僕に何か用かな?」



たじたじに聞くジュイチ、すると子供達は後ろから






「せ-のっ












はい!!!!!」







「え…これって」




それは大きな袋に包まれたクッキーだった





「これを…僕に?」



頷く子供達





「ジュイチおじさん!!七五三のお仕事ありがとうございました!! 綺麗な写真を撮ってくれてありがとうございました!!!!!



これは僕達からの感謝の印です!!!!!





これからもお仕事を頑張ってください!!!!」






「………!!」





ジュイチの目から自然に一雫の涙が溢れた、子供達が力を合わせてお礼のクッキーが焼いてきてくれたのだ





「……ああ、ありがとう



これからも頑張るよ」






子供達からクッキーを受け取り一枚食べる









「…はは、しょっぱいのに甘いや



なんだかやる気も漲ってきたよ!!」




いい表情になったジュイチを見てレイとジューサも笑う







「良かったですね~」





「ああ」














「【勤労感謝】されたね」




 ジューサは教えたかったのだ



【大人の為に働く仕事】に拘らなくてもいい


【子供の為に働く仕事】でも構わないということを



仕事に熱心になるのはいい






だけど



【働き先はちゃんと選びなよ】と








「ほんの…それだけの事だよ」



「そっか…」



クッキーを食べ閉め、ジュイチは決心する





「決めた、僕、元の世界に戻ったら保育士になる!!、保育士になって子供達に感謝されるような大人になるんだ!!


それまではここで七五三の仕事を続けて子供に慣れるよ」






その決断にレイとジューサもフフッと笑い



「いいんじゃないか?」



「素敵だと思います!頑張ってください!」








「ありがとう…君達のお陰でこれからも頑張れそうだ」




そして手を降りレイとジューサと別れる





「必ず夢を叶えるよ!!」





「私達も応援してま-す!!」




レイも離れていくジュイチに声が届くように叫んだ






ジュイチがいなくなった後でレイが呟く







「…ねぇ、ジューサ」



「…ああ」
















「(久しぶりに平凡に終わって良かったね!)」



「(最近管理者に関わるとロクな事無かったしね!!)」







ジュイチが管理者の中でも普通で平凡な人で良かったと思ったレイとジューサだった





続く























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