第15話僕は侍ヒーロー

ヒュウウウウ


高原に吹く風、互いに構えて見つめ合う二つの影


その真ん中を少女が胸に手を当ててゴクリと唾をのみ緊張して見つめる




「今日こそ決着をつけるでござる…ジューサ殿!!」



「……こい」



構え合う二人、騎士と武士


騎士の方はジューサ


武士の方は【ゴー】、5月の管理者だ


その身に宿る武士道魂にはみな、尊敬を称える



だがいかんせんゴーはまだ子供


5月といえば【子供の日】だからだ




「てやあああああああ!!!!!」


先にゴーがジューサに突っ込んでいく!!


だがしかしやっぱり子供!!



実際に見ればこうだ








「ちょこちょこちょこちょこちょこちょこ」


子供が短い足で一生懸命走っているようにしか見えないのだ!!




「………」


ジューサもゴーがくるまで棒立ちで立っている、割りと時間がかかる




そして丁度ゴーが目の前に来たところで




「てい」



「ぎゃん!!」



丁度ゴーのおでこをサーベルの鞘で叩くジューサ



コテンといい音をだしてゴーは倒れた




カンカンカーン♪




「はーいジューサの勝ち~♪」


レイがジューサの立つ方向の右手を挙げて勝者を述べる




「ううううう」



倒れながらジューサは悔しそうに涙を目に貯めてうるうるしている





その後、森の切り株の上に座り泣きながらもぐもぐおにぎりを食べるゴー



「ぐやじぃ…勝てないでござる」



「どうしてそんなにジューサに勝ちたいの?」



首を傾けながらレイが聞く




「…元の世界で拙者は姫ちゃんを助けられなかった」



「え(まさか本当にその歳でお姫様をお守りに…!?)」




「同級生の…姫ちゃんを」



「(あ、違う!!これ姫って名前の女の子だ!!)」




「姫殿は拙者の大切な立った1人の友人だったのでござるよ」



立った1人という言葉にレイはピクッと反応する


以前のシィの事もあってか、子供達の過去に少し敏感になっていたのだ



「…他のお友達はいなかったの?」



ゴーは首を横に降る





「拙者…特撮ヒーローが大好きで」


「うん」




「五月人形の鎧を纏っているのも口調も拙者の大好きなヒーロー【侍戦士ブシャー】の影響なんでござる」



レイはああ!!と手をポン!!とする



「知ってる!!私も日曜の朝の女の子向けヒロインアニメと一緒に観てたよ!!」



「でも…そのヒーロー番組が好きだと言う事をクラスの男子達にバレてしまい、やーい恥ずかしいだの幼稚だのと…」



「…うん」




納得がいった



よくある【ヒーロー番組は子供の物】という決めつけ



しかしそれは決して大人からではない


例えばヒーロー番組が好きな幼稚園児が小学生になっても小学生になった時点で「お前まだウルト◯マンなんて観てんの?だっせー!!」と煽ってくるクラスメイトも出てきてしまうのだ



「拙者はただ大切な姫殿を守りたくてブシャーに憧れてたのでござる…いっぱい観て動きも真似て、大事な人を守れる正義のヒーローになりたかった…けど出来なかったのでござる」





ある日片隅で聞いてしまった



男子達が姫をちゃかして泣かしていることを



「アイツが姫の事好きなんだってよ!!!!」



「ヒューヒュー!!!!!」




「やめてえ!!やめてよお!!」



その場でしゃがんで泣き崩れてる姫、それを見てゴーは怒りに震えた…けど、足が震えた



大切な人を守りたい…助けなきゃ!!


でも怖い…立ち向かうことが怖くて出来ない!!



頼む…動いてくれ…動いてくれよ僕の足







うごけえええええええ







……結局、足は動かなかった




男子達が去ってからようやく動いたのだ、なんて卑怯なんだろう自分は





「姫ちゃん!!大丈夫!?」


  



グズと泣きながら姫を俯いてゴーに話しかける





「なんで…助けてくれなかったの?」



「…それは」




その言葉に返せない、助けたかった、大事な人を守りたかった、でも…怖くて足が震えて動けなかった



なんて自分はこんなに身勝手なのだろう、何が大事な人を守れるヒーローになりたいだろう




「君の事は…僕が守るって言ってくれたのは…嘘だったの…?」





「………」


言葉が喉につまって言えない、違うって言いたいのに!!










「もうあんたなんか知らない!!嘘つき!! 卑怯物!! 大っ嫌い!!!!」




ゴーの胸に深く突き刺さる刃を刺して、彼女は去っていく


それをゴーは立ちすくんでしか見ることが出来なかった





けど傷つきながらもそこに生まれたのは諦めではなかった




【悔しい】




弱い自分にもいじめっこにも勝てない自分が悔しい



強くなりたい、いや、強くなるんだ!!





今度こそあの子を助けるために



弱い自分に…勝つために!!








「…そうして思いが届いて365に来たのでござるよ」



「そっか」


レイは馬鹿にせず真剣に聞いてくれている





「そしてジューサ殿に出会ったでござる」




ジューサ殿は強くてかっこよくて拙者の憧なのでござる、弱気を助けて強気を挫いてる


それにいつも落ち着いてる威風堂々としたクールな姿、誇り高き騎士道精神!!






「…うーん😅」



普段のジューサ「レイ!!お菓子!!」

「大変だ!!レイが大変だ!!どーしよー!!!!」


「僕が悪いんだ…どうせ僕が悪いんだ」



「レイ…一緒に寝よ?」



普段のジューサのプライベートを見てるレイにはそれは少し疑問があったが余計なことだと言わないようにした





「それから何度かジューサ殿に修行を頼んでいるのでござるよ、後はやっぱりジューサ殿に勝てないと拙者も強くなれない」



「あ、だからか」




とレイは納得する


強くなりたいなら最初の壁はジューサなのだ



ジューサに勝てるぐらい強くならないときっといじめっこにも勝てないと決めているのであろう




「…よし!!」



ゴーは口笛を吹き、青色の鯉幟型の魔物【鯉ジロー】を空から呼び出す



「レイ殿、話を聞いてくれて感謝するでござる


拙者は修行に戻るでござる」




「うん……勝てるといいね


ジューサにもいじめっこにも、弱い自分にも」




「うむ!! なら修行あるのみでござる!!



それでは!!」



ゴーは鯉ジローに乗って1人修行に向かった



空に手を振るレイも手をおろしさてとと




「あ…お買い物忘れてた」





暫くして買い物を終えたレイの帰り道



「ゴーくん、頑張ってるのかなあ」


と呟きながらレイは家まで歩いていく




そんな時、茂みから何か黒い影が…




「!? ングゥ」



黒い影に口元を押さえられる!!



「へへへ…姉ちゃんちょーいと静かにしてくれよお? お前は大事な囮なんだからよお」



そう言われると黒い影にスプレーをかけられる!!




「ン…グ」



そのまま静かに眠ってしまった!!どうやら催眠スプレーのようだ






その頃ジューサ宛にこんな手紙が届けられていた







「連れの嬢ちゃんは預かった、返してほしければありったけの金を持って【サヴァオルの海岸】までこい!!


byデボット」





その紙を握りしめてジューサは怒りに震える



「…ふざけるな」




ジューサは過去にデボットに見覚えがあった



なんせ自分が昔凝らしめた悪党だからだ



一度牢屋に入れられたのに釈放されてからも懲りてなかったのだろう



いや、それよりもデボットの中にあるのは反省ではない





【自分を牢屋に突き出したジューサへの復讐】







「レイ…待ってろ!!」




ジューサは袋にお金を積めてサヴァオルの海岸に向かう!!





- サヴァオルの海岸 -



「レーイ!!」



海岸に着いたジューサ、奥ではレイが木に縄で縛られている!!



「ジューサ!!」




「おっと、待ちな」



後ろから大柄な男が出てきた




「…デボットか?」



にししと嫌らしい笑みを浮かべるデボット




「会いたかったぜぇ、ジューサちゃんよお、


よくも昔は俺を牢屋に突き出してくれたなあ」




「…全く反省してないようだね、金に目の眩んだ子悪党」




「反省? 知らねえなあ」



デボットの目付きが鋭く変わる、それはまるでジューサへの憎悪だ





「牢屋の中に閉じ込められてからお前に復讐したくて仕方なったぜ!! さあ!!有り金寄越しな!!」




「……ほら」



怒鳴るデボットを前にジューサは冷静にお金の入った袋を投げる




「ついでに…サーベルを前に置け」



「!!」




「反撃されたら困るからよお、ハッハッハッ」




ジューサが反撃できないよう、ジューサの持つサーベルも要求してきた




「ジューサ…駄目!!」



止めるレイだが




「うるせえぞ小娘!!てめえは人質だ!!」



「あうっ!!」



ドガッと音を立てて頭を殴られてしまった!!




「レイ!!」




「うっ…」



そのまま気絶してしまう!!




「…わかった」




ジューサはサーベルを前に置く





「よーしいいこだ…後は」




デボットはジューサに近づく



すると








ドガッ!!




「!!っかは…」




思い切り膝でジューサの腹を蹴った!!





「てめえをいたぶっててめえを殺す!!


よくも!!よくもあの時は!!


楽して金がたくさん手に入るはずだったのによお!!」






「あ…ぐ…」


 ドガッドガッと痛め付けられるジューサ





「(すまない…レイ)」




「おらあ!!まだ死ぬんじゃねえぞ!!」




「ぐあっ!!…」




顎を思い切り殴られてふっとばされる!




そのまま地面に叩きつけられるジューサ、力なく倒れてしまう




「……」




「おっし、仕上げだ」



デボットはジューサの置いたサーベルを抜きジューサの頭上に構える




「お前の愛刀で殺してやるよ♪」




ジューサの上にサーベルが振り下ろされる!!





「……」




「しねええええええ!!」






ギリギリまで振り下ろしたその時だった!!









ガキイン!!





「なっ!?何!?」





「させんでござる…させんでござるよ」




なんとゴーが自分の刀でサーベルを受け止めた!!




「修行帰りの途中で上から鯉次郎に乗って見させて貰った…実に不愉快!!


拙者も確かにジューサ殿に勝ちたい!!



けど……」












「貴様のように憎しみや卑劣な行いで勝とうとは思ったことはないでござる!!!!」




これぞ侍魂だろうか、勝つなら正々堂々と勝ちたい、だからデボットのやり方が気にくわないのだろう




「なるほど…けどな!!」



ガッと足をかけられる!!




「!!」




「ガキが俺様に勝てる訳ねーだろーが!!!!!」




「がっ!!」



そのままデボットの膝がゴーの顔に思い切り叩きつけられる!!


どれだけ信念を持っていてもゴーは幼い子供、対格さが全く別だ


そのまま大男のデボットに軽くネコのように首袖をつままれてしまう!!




「ガキの癖に生意気に歯向かいやがって…おら!!死ね!!死ね!!」



「あっ!!がっ!!」



顔面を何発も殴られる!!




「おらあ!!」



「ぎゃっ!!」



そのまま仰向けに地面に叩きつけられ今度は足で何度も踏まれてしまう!!




「さっさと死ねよお!!」




「あっ!! ぐあっ!!」





薄れる意識の中…ゴーの心が震える



過去に大切な人を助けられなかったこと



今も大切な人を助けられないこと




【くやしい】という立った一つの感情




助けたい



絶対にこの身に代えても




守りたい!! 大切な人を




侍として








【憧れたヒーローとして!!】








「…………」



そのまま倒れるゴー…反応がない




「ハッハッハッやっとくたばったか、さてと


ジューサちゃーん♪」




ジューサのサーベルを引きずりながら倒れているジューサの所へ向かうデボット




その時だった!!






「……まだだ」




「あ?」










「…まだだああああああああ!!!!!」




「な、なに!?」




ゴーが目映き光に包まれ立ち上がる!!




懐から出したのは【侍戦士(さむらいヒーロー)ブシャーのお面】


あの日…彼女から貰った誓いのお面




----------------------


今よりも幼き頃、二人で縁日に行った大切な思い出



「はいっ!!あげる!!」



「姫ちゃん、これブシャーのお面?」




「うん!!」









「私を守ってくれる【正義のヒーロー】になってね!!!!」




----------------------




「!!」


忘れるわけが無い、あの日の約束を…まだ果たしてない


残っている力を振り絞りそのままブシャーのお面を被る!!





「うおおおおおおおお!!!!!」




「な、なんだ!?何が起きてる!!」




すると【ゴーの背が伸び段々と大きくなっていく!!】





「これが僕の能力…【大人になって身体能力上昇】!!!!!」



そう、ゴーの力は鯉次郎を操るだけではなかった!!



【大切な人を守れるヒーローになりたい】


その気持ちが極限まで高ると、ブシャーのお面が反応し、被ると大人になれるのだ!!




光が止み、そこには仮面を被った18歳ほどの青年の姿になった【大人ゴー】が立っていた





「な、なんなんだ…」





「………キッ」




デボットを鋭い目付きで睨み刀を構える…そして抜刀し刃をデボットに向ける!!





「侍戦士(さむらいヒーロー)ブシャー


否(いな)



侍戦士(さむらいヒーロー)ゴー!!




参る!!!!!」



「うっ!!」



ゆっくりと歩いてくる大人ゴー、対格差はまだまだあるのにその気迫にデボットが震え始める


後ろから見えるのは…誇り高き鎧武者の影!!恐らくブシャーなのだろうか





「くっ……」



震える拳を上に掲げ







「うらあああああああ!!!!!」



冷静を失いながら大人ゴーに拳を振り落とす!!




だが!!





「…甘いわ」




そのまま刀の刃で拳を止められた!!





「なっ…なっ」





「…今度はこちらから行くでござるよ」



ドガッ!!


「うっ!?」



目にも見えぬ速さで刀の鞘でデボットの腹を小突く!!


「うっ…おえ」


腹を抱え苦しむデボット



「この…やろ」


デボットがゴーの方を向く、すると



フッ




「!?」



目が合った瞬間、ゴーが一瞬でデボットの前から消えた!!





「何処だ!!何処に嫌がる!!」




辺りを見回すデボット、しかしゴーはいない!!



その時





ピタッ




「ひっ!?」




頬の横に冷たい感触が当たり、背筋を冷たい恐怖がつたってくる





ゴーは…背後にいた!!






「拙者とて命は取りたくはない


さあどうする、大人しく降参を認めジューサ殿のサーベルとレイ殿を解放するか



それとも




…このまま大人しく拙者に切られるか」






「……!!」






「…じょ」








「冗談じゃ……ねええええぞおおおお!!!!」




デボットは振り返りながらジューサのサーベルでゴーを斬ろうとする!!






「…愚かな」





その時ガッ!!とデボットの腕を誰かが捕まえていた!!





「んな…だれ」



恐る恐る振り返るデボット、そこには








「…それは僕のサーベルだ、返して貰おうか」




「ひえっ…助け」



顔を血だらけにしたジューサがデボットを睨み付け手を掴んでいた、デボットは恐怖の余り命乞いをし始める




しかしそんなことは通用せず





「フッ!!」





「ぎゃあ!!」




神速のジューサの拳がデボットの顔面を勢いよく潰した!!





「誰も【サーベルが無いと弱い】


なんて教えた事はないよ、僕は」




愛刀のサーベルが無くてもジューサは身体能力が高い、流石最初にいた管理者だ




「ついでに」



ゴーも鞘でコツンとデボットの首を叩く





「あっ…うっ…」




「峰打ちでござる」



そのままデボットはバタッと倒れた!!





ゴー達…いや、今回はゴーの大きな活躍で事件を終えることができた!!








事件が終わった翌日(正確には時は進んでないが)




「あの人、【永久牢獄】って所に幽閉になったんだ」




永久牢獄


365で事件を起こし、牢獄に入れられ釈放された後にも反省をせず罪を償う気のない犯罪者が永遠に牢獄に閉じ込められる場所である



そこは寒く暗く食事もままならず…命尽きるまで釈放されることは二度とない




「365で事件を起こしまくるとそうなるってことだよ」



ズズズとコーヒーを啜りながら話すジューサ



レイは俯きながら学んだ



「私…365っていい人ばかりだと思っていた、だけどテンさんやあの人みたいに悪い人も多いんだね」




「誰だって善も悪も併せ持ってるのが人間だ、それは元の世界でも365でも変わらないよ」




「そうだね…」




落ち込むレイ、けどジューサが窓を見ながら




「…だけど希望はある」



「え」





「ご覧よ」




二人で窓を覗く、そこには





「おーいジューサ殿-!!勝負でござる-!!



今度こそ負けないでござるよー!!」





「あっ…、そっか」




窓の下から大声でジューサを呼ぶゴー





「悪い奴がいたってこの通り安心」















「ここに【ヒーロ-】がいてくれるからね」




「……!!」









「うん!!」







下に降りて互いに見つめ合う二人





「この間は君のお陰で助かった、ありがとう」



ジューサの礼に鼻を啜りながらゴーも答える


「へへっ、ライバルを助けるのもヒーローの勤め!!


しかし勝負は別でござるよ!!」





ブシャーのお面を被り、光に包まれ侍戦士ゴーになる!! 背が伸び大人に!!





「この力で…いざ勝負」





心なしかジューサも嬉しそうに微笑みサーベルと抜く





「ああ…こい!!」





サーベルと刀をまじあわす二人、それを見てレイもふふっと笑う




「(なんだかんだ仲良いよね二人とも


これはもう決闘というより



【二人の特訓】だよね!!)」





「はああああああ!!!!!」



「でやあああああああ!!!!!」




笑顔のまま戦い合う二人、それは今までに増してたのしそうに見える、レイも応援する!!




「いっけー!!二人とも-!!



…あ!!」







「こんにちは!!少しあなたにお尋ねしたいんですけど



あの、どっちが勝つと思いますか?


私は……








内緒です♪」



何処か遠くを振り向いてレイは笑顔で聞いた


果して誰なのだろうか



それは神のみぞ知る






- 続く -



















































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