第12話 もう一度あなたと

テンとのいざこざがあってから3日が立った(正確には時は止まったままだが)




レイはベッドの上で寝転がりながら考えていた



「(…あの時、時止まりの狭間という場所へお兄ちゃんの魂が飛ばされて私の元の場所へ戻りたいという願いは叶えられなくなった)」





レイが元の世界へ戻りたい理由は【明日の自分の誕生日に何処かへ向かった兄が家に帰ってくる約束の日】だからだ、しかしテンに目の前で兄を殺され、その魂は時止まりの狭間という場所に投げられてしまった





「(テンさんは私の記憶の中でお兄ちゃんが殺されたから現実世界のお兄ちゃんも死んでるかもしれないって言ってたな…)」




恐らく記憶の中でテンに殺された人間は現実で生きているその人物も殺してしまうのだろう、きっと現実世界の兄は何処かで死んでしまったに違いない




「(そして気になるのはもうひとつ…)」




そう、最後にテンが言っていた気になる言葉



何故彼が人の記憶の中から人の魂を集めて時止まりの狭間へ送るのだろうと




ガチャリと家のドアが開く




「おーすレイ!!、ようやく起きたか」



「レイ!!大丈夫か!?💦」



いつもの二人、イチとジューサだ



まあ、大丈夫だろうと思っていたイチは差程不安な顔を見せずいつも通りニヒッといい笑顔で来た


反対にジューサは余程レイを心配していたのかいつものポーカーフェイスとは打って変わってかなり慌てて入ってきた





そんな二人を見てレイは聞く





「イチさん…ジューサ…1つ聞きたいことがあります」



二人して首を?と傾げる










「…【794(ナクヨ)】と【375(ミナゴ)】って聞いたことがありますか?」







テンが最後に言っていた言葉、どうしてテンが人の大事な記憶から人の魂を集めるのか


それは【(ナクヨ)と(ミナゴ)の為】



それは人なのかはたまたそうでないのかは分からないが彼が行動する目的はその為らしい




互いに顔を見合わせるイチとジューサ




「知ってんか?ジューサ」



「いや…初耳だ」




365に最も古く住んでいる二人でも分からないらしい




「そうですか…」



「何か言われたのか?」



ジューサがレイに尋ねるのでレイも嘘を付く必要はないだろうと全て話す





「…なる程、テンの行動理由はそれか」



「そのナクヨとミナゴって奴の為にテンは動いてんだな?」



レイは頷く




纏めるとこうだ




・365から秒を盗んだ犯人はテン


・テンは人の大事な記憶の中に入り人を殺して魂を奪う


・奪った魂は時止まりの狭間へ幽閉される


・その魂を集めるのはナクヨとミナゴという存在の為





「つまり…【人の魂を集めるのに時間が進むと厄介になる。 だから秒を盗んで止まったときの中で人の魂を集めてる】って事か」




ジューサが推理する



「…時間が進んだら目的の為に都合がわりーってことだな」




「それが分かれば秒を取り戻す手がかりになるかもしれませんが…」





う~ん


と悩む3人





「とにかく今3人で悩んでいても仕方ない


奴がまた来る前に他に協力してくれそうな管理者や住人を増やして考えよう」




「だな」



「ですね」





3人ではどうしようもない、それまではいつも通りお手伝い屋さんの仕事をしながら考えようと決断に至り3人は解散になった





解散間際、ジューサは俯きながらレイの所へ来る



「レイ」



「ジューサ?どうしました」




落ち込みながら話すジューサ


「その…ホントにすまない


僕がテンをちゃんと斬っておけば君の願いも…お兄さんの魂も…」



自分がしっかりしていれば、あの時テンを倒しておけばレイが誕生日までに元の世界に帰って約束した兄と再会できたかもしれない


自分のせいだとジューサは俯いて自分を責める





「きっと…僕は君に幻滅させられ…」





「―サ」














「ジューサ!!!!!」



「!!」






大きな声を上げてバチイン!!とジューサの両頬を「しっかりしろ!!」と叩き、ジューサの目を無理矢理自分に向けさせるレイ






「しゃんとしてください!!らしくないですよ!!」



「レイ…?」




ジューサを見るレイのその眼差しはキリッとしていて一点の曇りもない、決意に満ちていた




「奪われたものは全部取り戻せばいいんです



叶わなくなった願いはもう一度叶えられるようにすればいいんです



私はジューサに人を殺して欲しくないし、寧ろ彼処でテンさんから色々目的を聞けたのはジューサがテンさんを殺さなかったからです!!」





「レイ…!!」




「だからありがとう」









「皆で全部取り返しましょう



そして私は絶対元の世界へ戻って誕生日にお兄ちゃんと再会します




…一緒にこれからも頑張りましょうね!!」




そのレイの決意に満ちた眼差しと笑顔はジューサの曇りを晴れに変える





「…!!」






「…ああ!!」



それに連なりジューサの眼差しもキリッとした




それを遠くから笑顔で見るイチ





「(へへっ)…おっし!!


行くぞジューサ、仕事たまってんだろ?」




「ああ


わかってる!!」





そして3人は各自別れた!!







「(フフッ、良かったです♪)」







「フウ」


暫く立ってから、レイは【天(あま)の煌めきの森】の中にある川を眺めに行っていた



川の水は空の星達を美しく輝いて写し流れている




「綺麗ですね~」




その光景を見てニコニコしていた時、隣から声が聞こえた




「ええ、ホントにきれいですね」



女性の声だ



レイは誰だろう?と横を振り向く




「うふふ、突然ごめんなさいね」


くすっと口元を着ている着物の袖で隠して笑う女性、年齢はレイやジューサより上に見えて大人の女性を感じさせる美しさ、二十歳ぐらいだろうか



羽衣を羽織いまるでその姿は天女である




「(わあ、綺麗な人…)



私はレイって言います、あなたは?」




女性はニコッと笑い答える




「私は【7(ナナ)】、7月の管理者よ


あなたが噂の0月の管理者、レイさんね?」




「あ、は、はい!! よろしくお願いいたします!!」



慌ててペコペコお辞儀をするレイを見てナナという女性はあらあらとクスクス微笑む



彼女は7月の管理者のようだ、着物で羽衣を纏ったその姿から恐らくイメージは【七夕の織姫】なのだろう、7月といえば七夕である




「少し彼処でお茶でもしながらお話しないかしら? あなたとは話してみたかったの」




「あ、は、はい!!」




静かに歩くその姿、清楚感溢れる大人の女性のオーラにレイも魅了されていった




「(にしてもホントに綺麗な人だなあ)」





「ぐえっ」



(石につまずく音)



べちゃっ


(泥にダイブする音)






「あらあら、うふふ


泥んこね~♪」





「(う~ん…残念美人かな💧)」





暫くして二人は森から歩いて20分程の所にある【カフェ・シャルイン】にやって来た



老若男女問わず人が耐えない人気のカフェでレイの世界で言う【ス◯バ】みたいなところだ




レイは【バニラチョコクリームコレガイーノ】を注文、ナナも同じものを注文、までは良かったのだが




「あっ、カスタムで~ホワイトモカシロップ変更のチョコチップ追加のオーレン(オレンジ)シトラスを盛ってくださ~い♪」






「(わ、私より手慣れてる!?)」




明らかにレイの方が若いのにナナの方が常連客なのか長い呪文のような注文を噛まずにスラスラ~とオーダーしていた





「ふふっ、私も今時で映え~なオシャンティしてみたかったのよ~♪」



「(ごっちゃごちゃ!!)」





しかしナナがニコニコうきうきしているので楽しそうで何よりとレイは静かに頼んだ飲み物を飲んだ





「…さてと、本題のお話なんだけど」



その話題になった途端、ナナの目付きが真面目なものに変わる



そう、別にコーヒーを飲みに来たわけではない




何を聞かれるのかとレイも喉を鳴らし緊張する




「あの…お話の内容と言うのは」





一度静かに目を瞑ったナナがもう一度開きレイに話す






「…あなた、確かテンとあったのでしょ?」



「!!」



話の内容はテンの事だった



恐らくジューサかイチから状況を教えて貰ったのだろう




ナナはまた優しくくすっと微笑みレイに穏やかに尋ねる




「良ければ話してくれないかしら、あなたの口からその時の出来事を」




「…!!」





一度躊躇ったレイ、しかしナナのその眼差しは真剣なようで信頼に値できる相手だとレイは悟る







「…わかりました、お話しましょう」




レイは話した


テンがジューサの弟、ジューシを名乗りレイに接触してきたこと



テンの目的が人の記憶の中に入りその中の人を殺して魂を集めている事




その魂は時止まりの狭間という場所に幽閉されること




その目的はナクヨとミナゴという存在の為にあるということ





そして







レイ自身も目の前で兄を殺され、約束の自分の誕生日に再会できなくなってしまった事を









「…なる程」



目を瞑りながら納得するナナ






「ナクヨとミナゴという人の事はご存じですか?」



何かヒントが得られるかもしれないとナナに聞くレイ、しかしナナは首を横に降る



「いいえ、全く」



「そう…ですか」



それよりもと目を開くナナ、その眼差しはまた真剣そのもの




「あなたも…大切な人をテンに」




「え」




(も)という言葉に目を開くレイ




「もしかして…ナナさんも?」




ナナは頷く





「殺されたわ…私の恋人を」



「!!」




そして何処か悲しげな表情で微笑みながらレイに話す



「ねぇレイさん、聞いてくれるかしら」



















「私の最愛の人…【ヒコ】との別れの話を」




彼女は話してくれた


どうやら彼女は恋人の青年【ヒコ】と二人で365に来たようなのだ



当時の彼女は【オリ】二人で7月の管理者、ナナを名乗っていたらしい




「私がここに来たのは二人で愛し合える場所を探していたから」



現実の世界で彼女達の愛を許さないとする者達が存在していたらしい、互いの親や二人の愛に妬みを持つものだろう



そんな者達に追われ続け【誰にも邪魔されず二人で愛し合える世界に行きたい】と願った結果、365に来たようなのだ



親も妬む者達もいない、二人は幸せに愛し合っていた



しかしある日、目の前でヒコが殺された、記憶の中ではなく直接現実で




犯人は勿論テン、テンは去り際に煽るようにケタケタ笑いながらこう言い残して消えた






「せめて7月7日の七夕には合わせてあげるよ~♪」







「…けどね、それは嘘だってわかったの」



そう、オリがヒコに会えるわけがない



何せ【時が止まった】のだから


七夕は来ないのだから



七夕に会える織姫と彦星は…引き裂かれてしまったのだ



「けど…あなたがヒントをくれた、まあジューサが話してくれたことだけど


【時止まりの狭間】に殺された人達の魂があるって」





そう、レイがテンと対面した時に見た時止まりの狭間





「もしかして!!」



 あるかもしれないのだ




ヒコの魂も





 

「あなたが希望をくれたわ…ありがとう」




「!!」





レイは思った




あの時確かにプレッシャーでなにもできなかったかもしれない、あの時怖がらなければ大事な兄を助けられたかもしれない


それでも自分が見た、経験したことがこうやって周りに伝わっていることが、誰かの救いになっていることがレイは嬉しく思った





「……」



決意の眼差しをオリ、もとい今のナナに向ける


そして決める




「絶対に…絶対に取り戻します!!、私のお兄ちゃんも!!ハチさんの主さんも!!


ナナさんの恋人さんも!!


たくさん奪われた皆さんの魂も全部!!



例え一度ダメでも


全部ぜーんぶ取り戻すまでやります!!!!」




「……!!」




その決意を聞いたナナは静かに微笑み



「あなたの思い…全部受け取ったわ、ありがとう」



ナナは短冊を出す




「今のあなたの思い、必ず上手くいくよう短冊に書いておくわ」



「あ、ありがとうございます!!」




「それに」




ナナは星空を見上げる





「星達も大丈夫と言ってるもの、きっとなんとかなるわ


これが私の能力【星と会話することができる】よ」




「お、お星様とお話出来るなんて凄いです!!」






ふふっと笑うナナ




「さて、お話に付き合っていただいてありがとう、あなたに話せて良かったわ」



「こちらこそ-!!」



満面の笑みで返すレイ





「テンがいつまた来るから分からないからそれまではいつも通りでいきましょう



そしてまたテンが現れたら…今度は私も協力するわ」




「!!ありがとうございます!!」



協力してくれる管理者が一人増えた、それだけでも心強いだろう




「では今日はこれで



あなたに星々の加護があるよう祈っています」





ナナと別れ、レイは天の煌めきの森へ戻った





たくさんの星を見ながらレイは誓う




「(必ず全部上手く行きます!!行かせますよ!!)」





満天の星達の輝きが増したような気がした





続く



























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