第11話 あなたに救われたから

「おい!!レイしっかりしろ、おい!!」


レイを揺さぶるイチ、しかし反応がない


テンが謎の鍵を使いレイの中に入っていったのだ




「僕の…僕のせいで!!」


ジューサはあの時仕留めていればと悔やんでいる


その様子を見てイチはジューサの胸ぐらを掴みガッ!!と一発殴る




「 悔やんでても仕方ね―だろ!!


今はレイを助ける方が優先だ!!」




「……!!」



その言葉と渇でジューサも我に返る



「そうだな…!!」



その二人の所へ誰かの声が聞こえた



「…私にも手伝わせて下さい」




「…君は」




何故か彼女の周りにだけ止まぬ雨に塗れた少女、紫の髪に白い瞳、以前は長い前髪で目が隠れていた、でも今は前髪が短くなり少し自信に溢れた眼差しが見えるようになっている




そんな少女の左手の甲には【6】と書いている





「君は……【ムー】!!」





「私は彼女に救われました…


だから…今度は…私が彼女を救います…!!」











― ― ― ここはレイの中



「…あ、あれ?」




レイが目を開けるとそこは見覚えのある部屋だった




「な、なんで…? 私ずっと365にいたのに」



頭の整理が追い付かない、しかし自分の家の部屋にいるということは戻れたということなのだろう、そう確信したレイだった



「うん…きっと戻ってこれたんですね!!」



うんうんと頷いていると下から「やだー!!」と大きな声が響く




「…今の声」




部屋を出て下から玄関を除くとそこには1人の幼い少女と1人の高校生ぐらいの青年がいた




「やだああああ!!お兄ちゃん行っちゃ駄目えええええ!!」



大声で兄と思わしき青年にしがみつく幼き少女、それを見たレイは震える




「あ、あれ……【幼い頃の私】だ!!」




そしてその少女を宥めるように頭の上に手をポンと乗せる青年








「……【お兄ちゃん】!!!!」




急に暫く家に居られなくなったと出ていった【レイの兄】の姿がそこにはあった




やれやれというような表情を作りながらレイの兄が幼いレイの頭を優しく撫でる



「大丈夫だレイ、【レイの誕生日】には必ず顔を出すように戻ってくるから」



ぐずっと亡き続けている幼きレイは兄を見上げて呟く




「えぐっえぐっ…ほんとお?」




「本当だとも」














「必ずレイの誕生日【0月0日】には帰ってくるようにする」



「……え」



ピシィ!! とまるでガラスが割れるかのようにレイの頭の中で痛みが響く




「そうだ…私はお兄ちゃんが私の誕生日の日に帰ってくる事を知っていたので明日が欲しかったんでした、けど 0月0日なんてありましたっけ?…そもそも」











 「【私の誕生日って何月何日】でしたっけ?」




記憶すら薄れているレイ、頭を抱えて悩んでいるとき「ほんと!?ほんとに私の誕生日に帰ってくるの!?」という会話が聞こえてくる




「ああ、本当だとも」とレイの兄は笑顔でレイの頭を撫でる



 「約束!!約束よ!!


絶対に私の誕生日の日に帰ってきてね!!」



泣いていた顔から満面の笑みになった幼きレイ、それを見て安堵したレイの兄はドアを開き「行ってきます」と家を出た



「(…あ!!追いかけないと!!)」



レイが我に返り家から出た兄を追う


幸いにも自分の能力が幽霊な事にこの時初めて喜んだ




「(幽霊だから透けて見付からないように追えますね……気になってたんです





あの後【お兄ちゃんが何処に行ったのか】)」



そう、レイ自身は兄が自分の誕生日の日に帰ってくるという約束をしただけで兄が何処に向かったのかは分からない



念の為兄に見付からないように背後をスウーッと、付いていく




しかし



「!!きゃあ」




突然現れた黒い歪みが兄とレイの間を引き裂いてしまった!!




「お兄ちゃん!!


お兄ちゃん!!」




歪みを超えて兄のところへ向かおうとする強力なバリアが発生しているのか近付くことを許されない!!




「あう!!」



何度向かっても


何度透けて通り抜けようとしても




全て弾き返されてしまう




「どうすれば…」




レイが対処法が無く悩んでいた時だった




「だ…誰だお前は?」



レイの兄の前に立っている黒い影 


ケタケタ笑いながら姿を現したのは 


カボチャの頭をした【10】という数字が刻まれた鎌を持った子供だった






「トリック・オア・トリート~お菓子をくれなくても悪戯するぞ~♪


 【時止まりの狭間】へごあんな~い」





「…テンさん!!」




「これがレイちゃんの大事大事かあ~



んじゃ、斬ってあげるねん☆」





ズバッ




嫌な音が聞こえた



レイの目の前で倒れるさっきまで生きていた存在、手を伸ばしても届かない





「…いやああああああ!!!!!」




レイの目の前で





兄が殺された




「ふっふふ~でもあの世には行かせないよ」




兄の死体から浮かび上がる恐らく魂だと思われる物を手で力強く握るテン





「返して!!


お兄ちゃんを返してよ!!」




レイが叫ぶがテンは嘲笑うように煽る



「え~?やだよ、だって僕が手に入れた魂だもん、そうだ!!、前君と一緒に行動してた犬っころいたよね?」




犬っころ、きっとハチの事だろう




「…ハチさんがどうかしたんですか?」




「彼、自分のご主人様探してたよね~でも


あの世に行っても見付からなかった♪」



「…!!まさか」



ニタァと不気味な笑みを浮かべるテン



「ピンポーン!! そう、正解」









「あの犬っころのご主人様を殺して魂を奪ったのは僕だ☆」





「!!」






「…なんて事を」




レイの兄だけでは無かった


他の管理者、ハチの主の魂も奪っていた




「んでね、それが何処かにあるというと~上をご覧あれ」




上空は赤い空、黒い渦が激しく回っている!!



「何…あれ」



恐怖のあまり足が震えるレイ




「あれこそが【時止まりの狭間】


僕が奪った魂は彼処に保管しているんだ




つーまーりー」




レイの魂を握っている腕を上に構える




「!!ダメ…」




「そ―れ!!」



そして






渦の中に投げ入れた!!




「ダメエエエエエエエ!!!!!」




「もうおソーイ


ざーんネン☆」




レイの兄の魂が渦に飲み込まれていく



「あ…あ…」




「この狭間に飲み込まれるとね~【永遠に時が止まった中】に幽閉されるんだあ~♪


大事な大事な魂だからあの世へは送らせないよ~」




膝を付きがくっと倒れるレイ



「お兄ちゃん…お兄ちゃん…」





「さてと」



テンがレイに近づく





「僕の個性【人の大事な記憶の中に入り人の魂破壊する】ショーをご覧頂きありがとうございました~!!


君の記憶の中のお兄さんを消したから、今【現実にいる君のお兄さん】も消えてるかもね☆」





レイの頭の上に鎌の先が近づく




「あ…」



「ついでにレイちゃん




君も厄介だから






しーね☆」




テンが鎌を振り下ろす



「!!」




その時だった





「ワンワンワンワン!!!!!」



「なっ!!」





「え…ハチ…さん?」




レイの記憶の中にハチが入ってきたのだ!!




「くっ!!放せ犬っころ!!」



腕に噛みつくハチを振りほどく!!




「グウウウウウウ!!!!!」



「くっ!!なぜお前がここに!!」





「私の力です!!」



空から声が響いてくる



「その声…ムーさん!!」



「レイ!!聞こえるか!!」


「速く目を覚ましてハチと戻ってこい!! テンから逃げるんだ!!」



「ジューサ…イチさん!!」




何がなんだかと、たじろぐテン


「くっ!!何故この中に入れたんだ!!」



その言葉にムーが答える



「私の雨は不幸なだけではありませんでした…


【浄化の力】もあったのです」



それはムーが今まで1人でいたから気付かなかった力だろう



ムーの雨には【悪しき力を浄化する】力もあったのだ



その雨でレイの中にテンが鍵を開けて忍び込んだ部分を異変を察知してやって来たハチがレイと同じく【霊体になって透ける能力】で中に入ってきたのだ!!




「…私の周りの雨がいつも以上に激しく降るので異変を感じたのは正解でした」





ムーがレイに語りかける







「あなたに救われた私が



今度はあなたを助けられて良かった」





「ムーさん…!!」





「さあ、速く目を覚まして!!」





「…!!」



涙ぐんでいたレイはムーの言葉で涙を振り払う!!






「……はい!!」










ゴゴゴゴと、空間が地響きをあげる!



「くっ、まずい!!


先に目覚められたら記憶の中から出られなくなってしまう!!」



時止まりの狭間へ向かうテン


それを下から待って!!とレイが止める




「最後に聞かせてください!!


あなたは何の為に人の記憶の中から人の魂を奪っているんですか!?」




その言葉に暫く無言だったテン、しかし小さく答えた




「…【794(ナクヨ)】と【375(ミナゴ)】



の為」





「ナクヨ…ミナゴ…?」





謎の言葉を残し去っていくテン





そして目に見える空間が白くなり











レイは目を覚ました



誕生日に兄と再会するというレイの願いは














叶えられなくなった






― 続く ー











 








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