第5話 戻りたい者、残りたい者

ああ、もうどうしようか


希望なんてどこにもない、家族も友達も皆焼き焦げだ、皆死んだ



俺はどこへ向かい、どこで寝ればいい



俺の居場所は…どこなんだ





「あなたの居場所はここにあるわ」



寒さと空腹、眠気で目が霞む視界の中、俺を呼ぶ声が聞こえた



まるで母親のような暖かさに包まれた声はとても優しくて、俺の目の前に日の光が登ってきた



これが…俺の初日の出




「さあ、いらっしゃい


【1番(いちばん)】」


















時は今へ



「よお、お二人さん」


イチがレイとジューサの所へやってきた、最近よく遊びに来るのだ




「……ぜぇぜぇ」



そこにはテーブルにうつ伏せで倒れてるレイがいた



「ん?レイどしたん」



「やあ、ジューサ、それが最近レイへの依頼がたくさん来ていてね」




事の発端は前回のリンゴーン探しの依頼主であるコットルだった



彼女がどうやら近所の住人達に「期待の新人レイちゃんがやってきたのよ!!」



あらやだというような動作でホントに近所のおばさんの雑談で語り他のおばさん達も広げてしまったのだ





「あ~あの手のタイプの婆さんらはお喋りだからなあ、おーい大丈夫かレイ」




「はぁはぁ……み」



「あ?み?」





「未知なる展開、ギブミエナジー…」



なんか知らんが無性にメダルを集めたくなってきた二人だった



それはおいといてイチがそんなタイミングでホントに悪いと手を合わせてレイに頼む




「俺の依頼も協力してくれね?」


「うぇ!?」





ジューサはこの後別の依頼が入っているのでレイに頼むしかなかった




「ばたんきゅ~」



へにゃへにゃになりながら頷くレイだった






二人で依頼主のところまで向かう中レイが恨めしげにジューサを睨む




「他の管理者さん達じゃ駄目だっんですか~」



「あ~他の奴らはあんまり協力的じゃねーからなー、それにお前なんか話し掛けやすいし」



ムッとジト目になるレイ



「なんかチョロそうと思ってません?」



「い!?いや!?」




そんな会話をしながら歩いていた二人だがイチだが突然真剣な表情になってレイに話し掛ける




「…なあ、レイ


お前本当に元の世界に戻りたいと思うか?」




「へ?」



レイはその質問に少し間があったが真剣な眼差しで答えた



「あ、当たり前じゃないですか!! でないと誕生日が向かえられません!!」



どうしてそんなことを?という眼差しで見つめようにまるで作り笑顔のような笑みを浮かべて



「…そっか」


とただひとこと呟いた






暫くして依頼主の家へ着いた



「わー!!お屋敷です!!」



まるで豪邸のような立派な屋敷



「やあ、よく来てくれたね」



仲良く手を繋いでやってきたのは男女の二人組



金髪の男性は【エリック】


青髪の女性は【ヘレン】



というらしい




ヘレンが口を開き依頼内容を教えてくれた



「この後私達結婚式があるの、けどウェディングケーキを運ぶ人数が足りないのよ」




依頼内容はとても簡単な事だった



イチとレイは一緒にウェディングケーキを会場の前まで運んだ



エリックが礼を述べる



「ありがとう!!これでなんとか結婚式に間に合う!!」



「あ、いえいえそんな!!」



礼を笑顔で返すレイ



ヘレンがエリックの手を繋ぎ微笑む「これで【今日の結婚式】はすぐに挙げられそうね!!」



「ああ!!【明日の結婚式】も楽しみだね!!」





「…ん?」



その言葉にレイが疑問に浮かんだ




「明日の結婚式…ですか?」




「?何を言ってるんだ」












「【時が止まってるんだから明日も明後日も今日の結婚式が出来るんじゃないか】」




「【永遠に今日の結婚式】が出来るなんてここはなんて素敵な世界なのかしら!!」






「……!!」




その言葉にレイの背筋がゾクッとした




無言で帰る二人




俯いていたレイが顔を挙げてイチに尋ねる



「あの…あのお二人は」



「ああ、そうだな」


普段のヘラヘラしたイチとは違い真面目な顔で答える



「時が止まっている限りあの二人は【永遠に結婚式を続ける】だろうな、それに快感を得ている」




「…!!」


イチがさっきレイに聞いたことを理解した



【時を戻して元の世界に戻りたい、明日を向かえて誕生日になりたい】



だがそれはあくまでレイ個人の願い



あの二人のように【時が戻らないことに幸せを感じている、この世界に残っていたい】



そうすればずっと結婚式のままでいられるから、幸せでいられるから、その先の仲違い、離婚、子供の誕生、愛する者の死を見ないですむから




「ぶっちゃけ俺もあの二人側だ」



「え!?」



「元の世界に希望はない、


そんな時助けてくれたんだ…【先代の0月】が」




「!!」





「俺を…【365の最初の住人】として」



イチが教えてくれた


イチは元の世界では戦争が起きていて街は崩壊、地面には死体の山、親も友人も全て失いただ一人、空腹と眠気、寒気を維持しながらずっとさ迷っていた


絶望に飲み込まれていたその時、まるで初日の出が昇るが如く先代の0月が現れ自分を救ってくれたのだと



「…めでてえじゃねえか」





そして365の管理界の最初の住人となったのだ


それから暫くしてジューサを始め、他の管理者や住人も増えて今に至るらしい





「先代には感謝してる、この場所に連れてきてくれてようやく居場所が見つかったんだ」




その言葉を聞いて悩むレイ



私は時を戻して帰りたい


でもイチやさっきの二人のように時を進めないで幸せに過ごしている人もいる



「私はどうしたら…」



考えるレイの頭をぐしゃぐしゃ撫でるイチ



「わっ!? なんですか!?」




「ま、でもお前が秒を取り返して元の世界に戻りたいッてなら俺は止めねえよ」



「で!!でもそしたら…!!」


また戦争に逆戻りですよ!!と言いたかったのに喉に言葉が詰まりでてこない




「心配すんな、もうここで立ち向かう勇気は手に入ったからな


…レイ」




レイの顔を見つめイチは言葉を伝える




「さっきの奴らは気にすんな


誰かの言うことじゃねえ


お前が願ってる、叶えたいことをやれ!!


あいつらはただ前に進むのが怖いだけだ!!!!」





「……!!」



そして優しい笑みで



「…そしてそれが叶ったら、俺がお前の事をめでたく祝ってやるよ」










レイの家


イチと別れたレイは帰ってきた

そこにはジューサがいて本を読んでいた




「お帰りレイ…」




ダン!!っと テーブルを叩くレイ



「ジューサ!!!!」


「な、なに!?」



顔を近づけるレイ




「絶対に秒を取り戻そうね!!!!!」




「え?あ、うん」



何がなんだかわからないまま頷くジューサ





そんな二人のやり取りをレイの家の裏で聞いていた影が一人







「ギギギギあの女ぁ~よくもイッちゃんと~ギギギギ」




続く



































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