平和な地域に

子供達が無事小学校に登校していったのを見届けた俺に後ろから声がかけられた。


「なんだ、大木、今日も子供達にいじらていたのか。それじゃ先が思いやられるな」

「班長、おはようございます。っていうか見てたんですか⁉」

「面白そうだったからこっそり見ていた」


 彼の名前は西村貴久巡査部長。妻子持ちの51歳で、この交番の班長であり、俺の直属の上司だ。


 交番は24時間365日開けておく必要がある為、当然他にも警官はいるのだが、俺と班長はペアになる事が多い。


「そういや、大木、この間の昇任試験の感触はどうだ?」

「正直、微妙っスね。実技は自信があるんですが、筆記と面接がねえ……」

「つまらん奴だな、そこは嘘でも『絶対合格っス』て言わんと、そして落ちたお前をいじってやろうと思ったのに」

「班長!」


 班長の軽口に俺が抗議しようとすると、突如無線に連絡が入る。


「こちら〇△署刑事課丸井。〇□交番応答せよ」

「こちら地域課の大木、どうぞ」

「そちらの地域に指名手配犯の渋井凸汰が逃走したという情報を得た発見し次第、刑事課まで連絡せよ」

「了解!これより捜索します」


 刑事課に所属する丸井という刑事とのやり取りを終えた俺は早速情報を班長に報告する。


「班長、この地域に指名手配犯の渋井凸汰が逃走してきたと情報が入りました!」

「何!あの先日起きた一家惨殺事件の被疑者か⁉」

「はい!自分はこれから捜索します」

「おお分かった!緊急事態だから非番の奴にも連絡する。俺はここにいるから発見次第、連絡しろ」


班長の言葉に俺は無言で頷いてパトロール用の自転車に乗って渋井の捜索にあたる。


 渋井凸汰め、もしこの地域の人達に危害を加えてみろ、この俺が許しはしないぞ。


 そんな事を考えながら康太達の通う小学校が何やらざわついていて、校門と校庭に人が集まっており、その雑踏に康太がいたので俺は声をかけた。


「康太!どうした!一体何があった⁉」

「お、おまわりさ……ん、ど、どうし……よう……」


 いつも生意気なあの康太が涙ぐんでいて、言葉も中々でてこないようだ。そんな時に俺に若い女性が声をかけてきた。


「あの、交番のおまわりさんですよね、私、康太君の担任の宮空と申します」

「地域課の大木です、あの何があったかご説明願いますか」

「はい、刃物を持った男の人が体育館で体育の授業をしている児童と教師を人質に立てこもっているんです、そのクラスが康太君の妹さんの瑠美さんのクラスなんです」


 宮空先生の説明を聞いた俺は内心驚きがあるが冷静に振る舞い、スマホに保存していた渋井の写真を見せて尋ねる。


 「そうですか、あのもしかしてその男とはこういう特徴をしていませんでしたか?」

「あ、はい!そうです、私以外にも何人か見ていますので間違いないと思います」


  宮空先生に情報確認をしている俺に声を震わせながら康太が俺に声を震わせながら話しかけてくる。


「おまわりさん……頼む、瑠美を……助けてくれ……」

「康太、任せろ。瑠美ちゃんや他の子どもはおまわりさんが助ける」


 康太に瑠美ちゃんの救出することを告げた俺は康太を宮空先生に任せ、刑事課に現場に到着したことを告げる。


「宮空先生ですよね、康太君をお願いします。あとは我々にお任せを」

「はい、じゃあ康太君、とりあえず校舎に戻ろう」


 宮空先生が康太や他のクラスメイトと一緒に校舎に戻るのを確認すると俺は無線で刑事課の丸井刑事に連絡する。


「こちら地域課の大木です、刑事課の丸井警部補、応答願います」

「こちら丸井、大木巡査か、先程〇□小学校に渋井らしき男が人質をとって立てこもっているという通報があった。直ちに現場に向かってくれ」

「既に現場に到着しています、小学校に勤めている教師にも確認をとりましたが間違いないかと」

「そうか、では大木巡査、我々が到着するまで犯人を刺激しないよう説得し、人質の安全を最優先に行動しろ」

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