おまわりさんの卒業式

burazu

警察官の日常

俺の名前は大木博一。警察官になって3年目の25歳独身だ。


 基本的に警察官というのは各都道府県から採用され、まずは地域課という課に配属されて交番勤務というのがスタートだ。


 そこから各々の能力や希望、適性に応じて異動等があったりするが、俺は最初に配属された交番勤務をもう3年やっている。


 去年、昇任試験を受けたが見事に不合格だった。


 昇任試験というのは警察官がキャリアアップ、要は出世する為の試験だ。試験は筆記はもちろん、論文や面接、実技等の総合で合否が決まるのだ。


 俺は今年も受けたが正直微妙だと思っている。


 そんな事に思いをふけている俺にどこからか声が聞こえる。


「おまわりさん、おはよう」

「ああ、おはよう」

「なんか、ぼーっとしてたけど、そんなんじゃ悪い奴見逃すし、彼女もできねえぞ」

「うるせえ、悪い奴はごもっともだが、彼女については余計なお世話だ」


 彼の名前は宮田康太、小学校4年生だ。彼を筆頭にこの辺りの小学生はやたらと俺に対し、軽口だ。


 そしてそんな俺に声がかかる。


「大丈夫だよ、おまわりさんに彼女ができなかったら瑠美がお嫁さんになってあげるから」

「あ、ああ、ありがとう」


 彼女は宮田瑠美、康太の妹の小学1年生だ。言ってもらえるのは嬉しいが、彼女が結婚できる年になるころには俺はおっさんになっているから、さすがに彼女と結婚ってわけにはいかないだろう。まあ、子供の無邪気な発言であるとは思うが。


 「おい、いいのか瑠美?勤務中にぼーっとしているようなおまわりさんだぞ」

「だっておまわりさん、強くて優しいよ。この間もケンカしていた高校生の人達を1人で止めてたもん」


 ああ、そういえばそんな事もあったな。瑠美ちゃん俺のカッコいい所を見てくれていたんだな。


「それにね、お母さんが結婚するなら公務員がいいって言ってたよ」


 おい母親--!幼い子供に何を吹き込んでいるんだーー!


 そもそも公務員がもてるなら、なんで俺には彼女がいねえんだーー!


 そんな事を考えているうちに子供達の姿はなく、学校に向かったようだ。


 まったく、子供の言葉に惑わされるようじゃ、俺もまだまだだ。この分じゃこの間の昇任試験もだめかな。

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