7.太陽が焦がれる肌の色に
「こうしてどこかに出かけたりできる夏は、これが最後」らしい。
この夏を越えたら、怜はすぐに入院して治療に専念することになる。
だけど、治るかどうかはわからない。発覚した日には病気がかなり悪化していたと。そう、お医者さんが言った、と。
本当は今からでも入院しなければならないのだけれど、それは怜が頑なに拒んだ。「入院準備のための思い出作りをさせてほしい」と言い出して、誰の言葉も聞かなかった。
「香奈! なにその水着、だめだよ!」
更衣室から出て来た私を見て、少し怒った顔をした怜は言う。折角の海だから、怜の好きそうな黒のビキニに挑戦していた。でも、お腹が引き締まっていないのがまずかっただろうか。
やっぱり? と呟き返すと、怒った顔のまま
「他の男が見ちゃうじゃん!」
と。
その言葉で、まずかったのはお腹ではなく、露出度だったんだと気付かされた。ここまで露出することは人生で初めてだから、怜がそういうことを気にするなんて知らなくて。海には滅多に来ないせいで、羽織るものなどの用意は忘れていた。
そう言われても……とたじろいでいると、私の腕を取り、無理矢理自分の腕に絡ませた。
「じゃあずっと俺のそばから離れないで。ずっとだよ、わかった?」
「ふふ、わかったよ」
ご機嫌ななめな態度に、つい笑いを溢しながらも密着した。一緒に海の中に歩いていく。
こうして直に触れていると、怜の腕が細くなったのがよく分かる。骨っぽさが目立つようになった。全体的に痩せてきていた。
太陽が照らす肌の色も、いささか青白いように見える。考えすぎかもしれないけど、いつ具合が悪くなってもおかしくない現状に、不安が募っていた。
怜は何も言わないで、大丈夫なふりをしているのだろうか。実は体調が悪いとか、気分が優れないとか、隠していそうだから尚更心配だ。
あの夏のように、振り向いた時に倒れていたら。悪化している今、救急車も間に合わないかもしれない。
こんなに近くに居るのに、怜の身体に確かに触れているのに、それでも不意に怖くなってしまう。
こぼれ落ちそうになった涙をぐっと堪え、怜の白い腕を、私の腕で抱き締めた。
願わくば
来年も
再来年も
そのあと何十年も
怜の隣で夏を迎えられますように
私の愛する人が
ずっと隣に居てくれますように
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます