4.風鈴の音に
くるり。鏡の前で回ってみた。人前では滅多に履かないスカートと、明るい色のトップス。変じゃないかな。何度も鏡の前に立って確認する。
今日は大切な、1年記念日のデート。夏の紫外線に負けないよう、入念に日焼け止めを塗って、メイクもばっちり決めた。あとは怜からの連絡を待つだけ。
この待ってる時間が、どうにもそわそわしてしまって、座って立って、鏡の前に行って。落ち着かずに過ごしているうちに、リリリと電話が鳴った。
「着いたよ」
短い一言を聞いた私は、鞄を手に持ち家を飛び出す。お待たせ。そう言って笑う怜は、髪のセットも服装も完璧だった。
怜も楽しみに準備してくれていたんだ、と一目で分かった。それと同時に、あまりの格好良さに胸が高鳴る。
「かっこいいね」
「香奈は今日もかわいいね」
顔のニヤけが抑えられないまま、お互い褒め言葉を交わして、怜の運転する車に乗り込んだ。
向かう先は、私が以前から行きたいと駄々を捏ねていた、風鈴祭り。片道2時間の長い道のりになる。
しかし驚くことに会話が途切れることがなく、休憩を挟みながらも、2時間なんてあっという間に過ぎて到着してしまった。
辿り着いた風鈴祭りは、駐車場に居ても風鈴の音が耳にできた。いざ会場に入れば、目の前に広がる圧巻の光景。太陽の光に照らされて透き通った音を鳴らす、おびただしい数の風鈴があった。
「う、わー! すごい数だね、綺麗ー!」
思わず声を上げてしまい、気恥ずかしくなって隣の怜に視線を移すと、怜は怜で、まんまるくした目で辺りを見回していた。
怜のこんな反応、珍しいな。私は嬉しくなって、上がったテンションのまま手を引いた。
入口近くに、自分で短冊に願いを書いた風鈴を吊るせるという場所がある。ここにきたら、真っ先にやろうと思っていたことだった。
わずかな時間、列に並び、ひとつの風鈴を選ぶ。赤い曲線の描かれた、シンプルで可愛らしい風鈴。私がペンを持ち「なにお願いする?」と聞いてみる。
遠いどこかを見てしばらく悩んだ怜は、照れくさそうに
「ベタだけど……ずっと一緒にいられますようにって、書きたい」
と言う。まさか、怜からそんなお願い事を言われるなんて思ってなくて驚いた。全身に沁み渡るような幸せに、つい飛び跳ねながら「そうしよう!」と肯定する。
私はペンを持つ手に力を入れて、一文字一文字、丁寧に想いを込めてゆっくり願い事を記述した。完成したものを写真に撮ってから、受付の人に渡して飾ってもらう。
風鈴がチリンと、涼やかな音を鳴らした。他のどの風鈴よりも、私達の風鈴の音が、はっきりと聴こえたような気がした。
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