2.クーラーの温度に
「よー、いらっしゃい。入って入って!」
「……お邪魔します」
インターホンを押してから即座に開いたドア。初めて招いてもらった小山の家は、私の家なんかと比べ物にならないくらい小綺麗で、外観から圧倒されるくらいお洒落で、なんだかお金持ちそうな家だった。
そんな家にお邪魔することと、人生初の男子の家。そして、いつもの制服姿とは違うゆるい私服の姿に、私はどきまぎしながら顔を強張らせて靴を脱いだ。
先行く小山の背中を追って2階に上がる。ただ一緒に勉強しに来ただけだと、分かっていても緊張する。
「家族はみんな出掛けてるし、気ぃ、遣わなくていいから」
緊張に追い討ちをかけた言葉に、心臓の音を大きくした。学年で同じ大学に行くのが、私と小山の2人だけだったから、他の人は誘わなかったけれど……ご家族の1人や2人、居ると思っていた。
こんなことなら、誰か1人だけでも誘っておけば良かった。いくら付き合ってないと言っても、男子の部屋で2人きりだなんて。
やっぱり図書館で勉強会しよう、とは今更言えない。私に対して変な感情を持ってるとは思ってもいないけど、あまりにも気まずすぎる。
「大月?」
いろいろなことを、ぐるぐると考えていたら階段の途中でいつの間にか足が止まっていたようだ。名字を呼ばれて、意識を目の前に戻す。
「もしかして――変に意識させてたら、ごめん。あの、大丈夫だから。その、別に……俺、誠実だし……真面目……だし……?」
ばつの悪そうな顔をした小山が、歯切れ悪く言ってくれた。真面目さはともかく、誠実さは多分だけど嘘じゃない。
言葉を聞いて安心した私は、表情を和らげた。
「ありがとう、信じるね? さ、早く勉強しよ」
止まっていた足を動かし、再度背中を追う。開けてもらったドアで、2階奥の部屋に入ると、冷え切った空気が露出されている肌を満遍なく撫でた。一瞬にして首筋の汗が引いたのが分かる。
ここ、と指されたクッションに座り、鞄からノートや問題集など取り出して、机上のスペースを借りる。
麦茶を持ってくると言い、小山が部屋を出ている今の隙に、部屋の中をぐるりと見回した。
食べ終わったお菓子のゴミも、脱ぎ捨てられた服も落ちていない。毛布は綺麗に畳まれてベッドに置かれている。もしかしなくても、私の部屋のほうが汚いことが分かってしまった。
結構几帳面なんだな……と新しい一面を知りながら、クーラーの寒さに両腕をさすっていた。すると、麦茶を持って戻ってきた小山が「寒い?」とすぐに聞いてくれた。
「ごめん、ちょっとだけ寒いかも」
「いや、悪い。冷やしすぎたな」
クーラーの設定温度を上げてくれたので、お礼を言って、向き合って勉強に覚悟を決める。部屋の温度は、それ程の時間を要さずに居心地の良い涼しさへと変わっていった。
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