タイムリープの意味
「しかし、何で俺達タイムリープしちゃったんだろうな?俺なんてプロポーズする直前だったんだぞ?花束に指輪なんか用意しちゃってさ。」
「災難ですね。」
「またプロポーズできるようになるまであと10年後だぜ?しかもそこにたどり着ける保証無しと来たもんだよ。ツイてねぇ。上手く行けばあの人の手を握って共に生きていけるとおもったのにさぁ……。」
そうだ。あれだけ俺が人を好きになるてのはあの時が初めてだった。それでなんとかデートに来てもらったり、どんなプレゼントで喜んでくれるか足りない頭絞って考えてみたり、とにかく一生懸命だった。
「まぁ、なんとか頑張るしかないですよね。私も生天目くんも。」
「そうなんだけどなぁ……。俺があそこまでたどり着けたのはほぼほぼ運なんだよなぁ。大学受験も山張って勉強したのが大当たりでまぐれで合格してるし、そこそこ良い企業入れたのもたまたま面接官と趣味が同じで共感してもらえたからなんだよぉ。もっかい同じ事できる自信無いよぉ。」
嘆くしか出来ない。どうしてこうなってしまったんだ。タイムリープする必要無い俺がなぜしてしまったんだ。タイムリープすべきはもっと全然人生上手く行ってないやつとかだろ……。まぁ俺は人生上手く行ってなくてもタイムリープしないけどな。方法があったとしても。現状タイムリープしてしまったが。それはそれで。
「私も……大事な話があると言われていたのにこうなってしまったので、内容を聞けるのは10年後ですね。恋人からなんですけれど、一体何だったのやら。」
「それこそプロポーズだったりしてね。」
「そうだと嬉しいんですが。」
こんな会話をしていると、他の生徒達もちらほらと教室に入り始めた。それで俺達は一旦会話をやめる。こんな電波な会話を聞かれたら正気を疑われてしまう。
「さて、お話の続きは放課後にしましょうか。今後どうするかの方針も含めて。では。」
そう言って木村さんは自分の席に戻っていく。
さて、と。本当にどうするかな。まぁ一度通った道なんだ。経験を活用してうまくやれば文武両道でモテ期到来とかもできるわけだ。そういうふうに楽しんでいくというのもある意味では悪くない。何せ未来がわかっているんだ。細かい所は覚えちゃいないが大きな動きは知っている。例えば6月の半ば頃クラスのアイドルだった古賀さんが傘を忘れて雨に打たれて帰った時に風邪を引いてしまってそれを拗らせて少しの間とはいえ肺炎で入院てなった事態があった。それを防ぐために傘を貸すか、あるいは相合い傘してもらって恋人気分に浸るとかそういうことも出来ちゃうわけで……。
あれ、ちょっとまてよ。既に知っている未来を元に事故とかそういうのを防げるとしたら……。議員さんの娘さん、確か交通事故にあったとき、一命は取り留めたけれど障害が残ってしまって腕だか足だかに麻痺があるようになってしまったとかそんな事をお袋が言ってたような……。
今、俺達がタイムリープしてしまっているのはそれを救うため……?いや、偶然に意味を見出してはいけないだろう。この世で起こることの大半に意味なんて無いのだから。
けど、俺は今その人を救える状況にある。……だったら、救いに行くしかない。思い出せ。事故は学校のすぐ近くの交差点。ここから5分もかからない所。時刻は九時半ごろだ。目撃情報を募っていたのを覚えている。……そこにいて娘さんを見かけたら声をかけて事故現場からうまく離してしまえば事故にあわずに済む。入学式の開始は10時だ。抜け出してもギリギリ間に合うはずだ。……最悪怒られたとしても不幸になる人間一人減らせるのなら余裕でお釣りまで来る。
思い立った俺は早速教室から駆け出していた。
「生天目くん!」
何かを察したのか木村さんが後を追ってきた。
「まさかと思いますけど……市会議員の娘を助けに行こうとしています?」
ジャストその通りだ。
「まあな。なに、ちょっくら事故現場から移動させるだけだ。」
「あの……なんとなくだけどやめておいた方が良いんじゃないですか?」
「安心しろ。何か強引な方法使おうとしてるわけじゃないんだ。」
「そういうことじゃなくて……。」
「バタフライ・エフェクトを心配しているのか?だったら安心しろ。もう既に俺達の行動でそんなもの起きてしまってるんだ。今更だ。」
「言うか言わないか迷っていたけれど……。言わせて貰います。さっきも敢えて助けに行けるとかそういう話をしなかったのは……災難にあう人を助けると助けた人が帳尻合わせさせられるんです。」
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