城への帰還

 敵地での野営で一晩を明かした信長は翌日無事に居城である那古野城への帰還に成功する。


 正秀も城に帰還すると信長に対し、安堵の言葉をかける。


「敵地で、それも城の周辺で野営をすると仰せになった時はどうなるかと思いましたが、無事初陣は成功でしたな」

「……爺、父上への此度の戦の報告は任せた。わしは少々出かけてくる」

「あ、信長様……」


 信長は正秀に父信秀への報告を任せ、早々に着替えを済ませ街へと赴いていった。目的を誰にも告げずに。


 結局正秀はそのまま信秀の居城である古渡城へと向かい、登城し、信秀に謁見し、本丸御殿で信秀に信長の初陣の成果を報告していた。


「そうか、信長の初陣は無事に済んだか」


 この男こそ信長の父であり、現織田弾正家当主の織田信秀ある。尾張守護代の織田氏の奉行家ながら莫大な財力を基盤に、主君筋の尾張守護代織田家、更にはその主君たる尾張守護斯波氏をも凌ぐ勢力を築いていた。


「はっ、ですが城に戻るなりまた稚児達との遊びに出かけられたかと」

「初陣を済ませても落ち着かん奴よのう、しかし信長が城そのものを攻めるのを我慢したとは、やはりあやつはただのうつけではないかもな」


 信秀は正秀の話から信長に武将としての才覚を感じ、自らの後継者にはふさわしいのではないかと考えていた。


 火の巡りを実戦から学ぼうとする姿勢、敵地でありながら野営をするという豪胆さ、将としての引き際が備わっていると感じたのだ。

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