企画外

 僕はある組織のメンバーの一人。業務をこなし、日々の生存を保証してもらっている。その日は怪しいバーの調査、及びある人物の殺害という依頼だった。組織が追っている重要人物がその店にいるかもしれないとのことだった。


 夜の山道は電灯もそんなに無く、しんと静まり返っていた。バーへ向かう途中、一人の男とすれ違う。酔っているわけではなさそうだが、足取りは覚束ない。


 特に何も無い山でランニングするような服装でもなく、バーのある方向からこちらへ向かってくる。一般人?それとも─


ズッ


 考え事に耽っていると背後から刺されたようだ。僕の能力の都合上、痛みは無いから殺されるフリをしようとした。何度も刺すものだから少し気が滅入ったけどどうにか満足したようで土に埋められた。


 流石に埋められると面倒だから表面近くで待機する。こっち側の人間ならさっさと去るのが普通だから大抵こうする。だから寝転がられた時は驚いた。


 僕みたいな格好をした人に何か恨みでもあったのかな。それとも衝動的な殺人だったから疲れたのかな。息がしづらくて呼吸が少し乱れる。


 少し経つと、殺した人の上に寝転がったくせに急に怖くなったのか走って行ってしまった。できれば追い掛けて例のバーと関係があるのか調査したいけど、今回はバーを叩く方が先だ。


 山の中腹辺りにあるバーは山に似合わないような小洒落た外見だった。事前情報によると裏社会の人間達の密会や賭け事などで使われる場所だそうだ。本来一般の客など来ない場所の割に大きく、造りがしっかりとしているのはそのせいだろう。小さなパーティーくらいなら開けそうな程の広さだった。


 誰にも見られず、誰も見ず、店へ侵入する。土と血の付いた黒服を怪しむ人はいない。店を隈無く調べてみると、それらしい痕跡はあったがどうやら手を引いた後らしい。特にめぼしいものは無かった。


 もう一つの依頼であるターゲットの背後に立つ。ターゲットは至近距離に迫られても気付くことはできない。僕にはそんな力がある。


 目を見られなければ誰からも気付かれず、任意の相手にのみ認識させることのできる能力。理不尽で一方的な殺人ができる能力だ。


 こんな能力とこんな仕事をしているから疑うかもしれないけど、僕は人殺しが好きなわけじゃない。日常生活でこの力を使うことは無いし、無闇な殺人もしない。生きるためには仕事をしなくしちゃいけない。僕の生まれた環境では已むを得ないことだった。


 何の罪滅ぼしにもなりはしないが、僕は人を殺す時、その人の目を見る。貴方の存在を認め、貴方の生を認め、貴方の未来を拒む。貴方には僕を見る権利があり、僕を殺す権利がある。だから僕が貴方を殺すことを認めてください。


 そんな一方的な殺人宣言の後、今回の殺人にも終止符を打った。一つ誤算だったのはターゲットが店に爆弾を仕掛けていたこと。僕は軽症で逃れたけど他の人々がどうなったか想像に及ばない。自分が殺されると知っていながら待っていた可能性がある。唯一の手掛かりであるあの男を調査することにした。


 男は一介のサラリーマン、両親は既に他界して兄弟は無し。交際はしておらずアパートに一人で住んでいる。裏社会との繋がりは見つからなかった。じゃあどうして男はバーに居たのか。単なる偶然であった可能性もあるけど、こればかりは確かめるしかない。


 直接会いに行ってみた


 男は一人でベンチに座り、昼食を摂っていた。背後に立って、声を掛けようとしたらバッとこちらを向いたからビックリした。


 見えるようにしているから当然見えているはず。だが男は目を見開くばかりでリアクションというものをとっていない。そしてその後、共に歩いてもみたが反応を示さない。どうやら男は一般の人間ではないようだ。


 表の顔を持っているのならそう簡単に手放したくはないはず。終業時間にまた後を付けるとして、バーを爆破するよう仕向けた者を探すことにした。


 バーにあった微かな痕跡から大体の見当は付いている。確固たる証拠を掴むため、組織へ潜入する。


 町の組織は地下に根付くことが多いから入りこむと脱出まで時間がかかる。僕の能力ならきっと簡単だけど、夜には戻らなきゃいけないから港近くの倉庫群に目を付けた。


 そこなら爆薬があった痕跡も見つかる可能性がある、そう思って忍び込んだはよかったが異様に警備の数が多い。まるで初めから知られていたような─


「!!」


 頭を掴まれ、顔に巻いていた隔帯を剥がれる。遅れて手を払い除けようとするも目を見られ、抑え込まれる。力が上手く働いていないのがわかる。


 気怠げな両目の琥珀が僕を貫いていた

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