その⑧

「ああ、なるほど…」

「どしたの?」

 五十嵐伊織が心配そうに僕の顔を覗き込む。

 僕は出来るだけ、堂々とした。

「いや、何でもない! 写真、ありがたく頂戴しよう」

「うん、頂戴しちゃって」

 写真をもらって、他に用事が無くなった僕は、その後すぐに五十嵐伊織の部屋を出た。

「じゃあね、また明日~」

「おうおう! 警察に捕まらないようにしとけよ!」

「そっちこそ~」

 そんなことを言い合って、五十嵐伊織と別れた。

 日はすっかり高く昇っていて、熱線が容赦なく僕に降り注ぐ。

 すぐ近くの電柱で蝉がたむろしていて、子孫繁栄のために、わんさか鳴き合っている。

 夏の電気ストーブの前にいるような、じりじりと肌が焼かれるような感覚を覚えながら、アパートの階段を駆け下りた。

 カツンカツンカツンカツン…と、僕のサンダルが、赤さびの浮いた鉄の段を踏みつける音が響く。パスタに生クリームを掛けて食べたら意外に美味しかった時のように、その音は夏の蝉の鳴き声とマッチングしているように思えた。

「ふふふふふ…すぐに写真集に加えてやるからな」」

 階段を降りて、ナップサックの中から先ほどもらった写真を取り出す。

 写真を握ったまま、僕は夏の路地を走り出した。

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