第8話 完璧美少女は当然モテる
学校へ向かう通学路の途中。俺は昨日のことを思い出して、憂鬱な気分に浸りながら歩いていた。
その原因は、昨日の放課後に遡る。
***
昨日の放課後。
忘れ物を取りに戻って来た教室で、今まさに告白が行われているという状況に俺は遭遇してしまった。
俺には人の告白現場を好き好んで覗くような趣味は無いし、告白の結果がどうであろうと当然興味はない。
俺は仕方なく、当事者同士の話が済むまで影を隠して待つことにした。
しかし、告白している側の男が「これで三回目なのに!」という発言と共に激昂してしまい、俺も見過ごすわけにはいかなくなってしまった。
いや、本来の俺であれば、見過ごしていたかもしれない。そうしなかったのは、俺は告白されている相手が誰であるかをわかっていたからだ。
それは恐らく、若柳だ。姿は確認していないが、わずかに聞こえて来た声。そして何より、同じ人に三回も告白をされる人物など、俺の知る限りでは若柳ぐらいしか思いつかない。
ショッピングモールでは若柳に助けてもらったので、彼女が困っているなら今度は俺が恩を返す番だ。
「ごめんなさい。それでもあなたとは付き合えません」
「そんなこと言わずに、お試しってことでもいいから!……なあっ?」
「や、やめてください!」
男が若柳の腕を無理やり掴んだのを見て、俺はすぐさま教室に足を踏み入れた。
「お取り込み中のところ失礼します。忘れ物を取りに来ました」
「はぁ?今どういう状況かわかってんのか?空気読めよ、お前」
「お前こそ彼女が嫌がっているのがわからないのか?少し話を聞かせてもらったが、三回もフラれといて今度は力づくとは……。お前、ダサいぞ?」
「んだと……」
これだけ挑発すれば、どうやら男のターゲットは若柳から俺に変わったようだ。
ここから俺がやることは……。
全力で逃げる。めちゃくちゃダサいけど、俺は喧嘩なんてしたことがないので戦ってもボコボコにされるのがオチだ。
最悪屋上に逃げ込むか、保健室にいるであろう咲奈姉さんに匿ってもらおう。
俺はそう決めて、教室を一目散に飛び出した。
「テメっ!待て!」
よしよし、ついて来てる。実はここで向こうがついて来てくれなかった時が一番ダサかったのだが、なんとか俺の狙い通りにいったらしい。
まああの男は頭に血が昇りやすいタイプの人間だったようだし、十中八九俺の挑発に乗ってくるとは思っていたが。
あとは若柳が、さっさと教室を離れてくれればいいのだが……。
「逃がすか!」
いや、どうやら今は自分の心配をした方が良さそうだ。
俺は中々諦めてくれない追跡者を後方に見やりながら、ひたすら逃げ惑ったのだった。
***
……というのが、昨日の放課後に起きた一連の出来事の流れだ。結局男は俺を追うのを諦めたのか、いつの間にかいなくなっていた。
そして俺は現在、昨日自分がかなり恥ずかしいことをしてしまったのを思い返して嘆いているというわけだ。
若柳が本当に助けを求めていたのかも確認せずに、いきなりヒーロー気取りで現れて、クサいセリフを言う俺。
想像しただけで寒気が止まらないが、今日学校に行けばそれだけでは済まないかもしれない。
昨日の俺の行動があの男によって言い振らされ、俺は腫れ物扱いなんてことになったら……。
その時は、俺はもう二度と学校に行けそうにない。
大きなため息をついて、俺は渋々ここを通るのは最後になるかもしれないと考えながら、通学路を進んだ。
***
「よぉ、秋月!今日はいつになく元気がなさそうだな」
「まあ、ちょっとな……」
「おいおい。いつもならそこは、『お前はバカみたいに元気で羨ましいよ』とか言ってくるのに、その様子だと今日は本当に元気がないみたいだな」
今日は朝から冴木と茶番を繰り広げる気力も、今の俺にはない。
冴木は怪訝そうな顔をしながら、陽キャグループの輪に交ざりにいった。ひとまず俺を一人にすることにしたらしい。
正直今は一人で落ち着きたいと思っていたので、やはりこういうときに気遣いができる冴木こそが、本物のヒーローなんだと思う。
ヒーロー気取りの俺と違ってな。ハハっ……。
何も考えていないとどんどん自虐に陥りそうになってしまった俺は、とりあえず朝礼の時間まで仮眠をとることにしたのだった。
その後少しして若柳が登校して来たのだが、その時に若柳が放った爆弾発言を、ちょうど眠りについていた俺はしばらくの間知る由もなかったのだった。
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週の初めをラブコメ週刊ランキングにて6位という好順位でスタートを切ることができました!ありがとうございます。
そろそろ物語がタイトルを回収する場面に差し掛かってまいりますので、引き続きよろしくお願いします。
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