第5話 完璧美少女はいつもと違う

☆100ありがとうございます!!!


ーーーーーーーー


 意気込んで開始した部屋の掃除は、気づけば呆気なく終わってしまった。


 どこもほとんど使われていないのだろうか、埃を被った部屋が多かったが、それほど大した労力はかからなかった。


 うちの一番下の妹の花凛が玩具や絵本を散らかしたり、食べ物をこぼしてしまったりした時の後片付けの方が俺にとっては余程大変だったりする。まだまだ無邪気で元気いっぱいだからな……。


 だから、一人で黙々とする掃除は案外楽なものだったということに気づいた。


 ひとまず目に見える場所はあらかた綺麗になったので、リビングで律儀に俺の掃除が終わるのを待ってくれている若柳に声をかけることにした。


「あの、とりあえず掃除が終わりましたので、確認お願いします」

「え、もうですか?」


 若柳が怪訝そうな顔でそう言うので、俺はそこで初めてあることに気がついた。


 どうやら俺が掃除を始めてから、まだ一時間も経過していなかったらしい。つまり、俺の仕事の成果が疑われているということだ。


 どう説明しようかと考えていると、俺が何か言う前に若柳が動いた。


「いえ、本職の方からすれば、別に早くもないのでしょうか?」


 若柳は自分で納得して、部屋を確認することにしたようだ。




「え……本当にすごく綺麗になってる……」


 やっぱりまだ疑ってたのか。まあわかってくれたならそれでいいが。


「本棚に収まりきらない本まで、丁寧に埃を払ってくれたんですか?」

「ああ……まあ書斎はそれぐらいしかやることがなかったので……」

「ですが、フローリングも綺麗になってますし、プロの方は本当にすごいですね……」


 俺は別に、いつも家でしている通り、普通に掃除をしただけだったのだが、なぜかやけに褒められてしまっている。


 まあ確かに、仕事だから少し力を入れて掃除をしたが。


「さて……、他に特にお願いすることがなくなってしまいましたね……」


 本当に掃除しか頼まないつもりだったのか。正直、俺がしたことと言えば、特別難しいことではない。多分誰でもできる。


「でも私は掃除が苦手なので、助かりました」


 しかし、そうお礼をされてしまえば、「誰でもできますよ」とは到底言えなかった。


「他にも何かしましょうか?」


 初めての仕事で勝手がわからない俺は、とりあえずそう聞いてみることにした。ないならないで仕方ないし、あればそれをこなすだけだからな。


「そうですね……。やはり、特にお願いすることはないですね……」

「そうですか。それでは今日のところはこれでお暇しますね……」


 そう言って俺は家を出て行こうとした時、改めて若柳の顔を見てとあることに気がついた。


 若柳は何か言いたそうな、しかし言い出しづらいと言ったそんな様子が伺える。


「あの……、どうかしました?」


 俺のそのセリフは、奇しくも昨日ショッピングモールで若柳が俺に声をかけてきた時のものと一致した。


「じ、実は……。ご飯を作ってもらうことって、お願いしてもいいのでしょうか?」


 弱々しい声で若柳はそう言った。


 なんだそんなことかと、納得して俺は答える。


「もちろんです。ただ……食材はありますか?」

「あ……、ちょっと待っていてください」


 若柳は俺にそう言うと、冷蔵庫があるであろうキッチンの方へ一目散に駆けて行った。


 なんだか、心なしか普段の若柳の元気さが伺えたような気がする。


 ……が、そう思っていたのに、戻ってきた若柳は先ほどまでと同じく、いや、先ほどよりさらに冷ややかな様子で戻ってきた。


「ごめんなさい……。何もなかったので、今日は結構です……」


 普段、完璧美少女の笑顔が常に張り付いている若柳が、今は表情をコロコロと変えていることに俺はだんだん面白くなってきて、次にこう言ったらどんな顔をするだろうか、と少しいたずら心を含ませて言った。


「そうでしたか。なら、今から買いに行きましょうか。スーパーまではそんなに遠くないですし」


 俺がそう提案すると、案の定と言うべきか若柳は嬉しそうに顔を明るくさせた。


「い、いいんですか?」

「もしかしたらダメかもしれないので、今回だけですよ?」

「ありがとうございます!」


 なんだか食べ物で釣ったみたいな状況になってしまったが、若柳が少しでも心を開いてくれたようでよかった。


 実は仕事に来るまで、警戒されてしまって初日からクレームを入れられたりなんてことを恐れていたのだが、どうやら俺の心配は杞憂に終わったらしい。


 そう言えば、なぜ家に食材が何もないのか。なぜ明らかに使っていなそうな部屋の掃除を頼んだのかという疑問は浮かんだが、考えることは後にしてひとまず与えられた仕事をこなすことにした。








ーーーーーーーー


 若柳さんが警戒心を少し解いてくれたのには、蓮斗くんが清潔感ある見た目をしていたからと言うのもあります。つまり、結菜ちゃんのおかげです。

 

 なお若柳さんは、家事代行の「秋月さん」とクラスメイトの「秋月蓮斗」が同一人物だとは気づいていません。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る