第3話 放課後のショッピング

 ☆50&ラブコメ日間5位ありがとうございます!


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「……なあ、まだ見るのか?」


 放課後。

 俺は家からさほど遠くない場所にある、最近新しくできた、この辺りでは一番大きなショッピングモールに妹の結菜とともに訪れていた。


 その目的は昨日話していた通り、俺の私服を見にきたというわけだ。


「待って。もう少し〜」


 そんなやりとりを五分に一度繰り返して、いつの間にかすでに一時間が経過している。


 女子の服選びは長いとはよく聞くが、まさか俺が着る男ものの服を選ぶのにもこれほど時間がかかるとは。


 まあそれだけ真剣に悩んでくれているのはありがたいことではあるのだが、ただ待っているというのも流石に疲れてきた。


 適当に服を見て回ろうにも俺にはさっぱりだし、かと言って結菜を置いて他の店を見にいくというのわけにもいかない。


 俺が一人そんな葛藤を繰り返していると、結菜がいくつか選んだ服を持って声をかけてきた。


「お兄にはこれが似合うと思う!……てことでほら、着替えて着替えて!」


 結菜はそう言うと、俺のシャツの裾を引っ張るようにして、試着室へと連れていった。


 そして、俺は促されるように次から次へと服を着替えていく。


「うんうん!どれも似合ってる!」


 どれを着ても基本的に結菜はそう答えるが、自分では本当に似合っているかわからなかった。


「それじゃあ、これとこれと……あとはこれね!」

「こんなに買うのか?」

「お兄、ほとんどまともな私服持ってないんだから、三着ぐらいは必要だよ。毎回同じ服じゃ嫌でしょ?」

「俺は別に嫌じゃないが……」

「お兄がよくても、お客さんは嫌なの!」


 結菜は、俺に有無を言わさずに厳選した服を差し出してそう言った。


 正直、一度に服を三着も買うとなると、俺の財布の中身はかなり寂しいことになる。


 しかし、これも未来への投資だと思うことにして、俺は大人しくレジの方へと向かっていった。


「それじゃあ私は他のお店を見てくるから、それ買ったら来てね」

「ああ、あまり遠くには行くなよ」

「はーい」




***




 俺は会計を済ませると、結菜を探す前にひとまずトイレに向かった。結菜の服選びがなかなか終わらないので、実は結構我慢していたのだ。


 用を足して、いざ結菜を探しに行こうと思った時、俺はあることに気がついた。


「……ここ、どこだ?」


 先ほど通ってきた道を戻っていたはずなのに、気づけば周りには見覚えのない店ばかり立ち並んでいた。


 闇雲に歩いていても元の場所に戻れるはずもないと悟った俺は、ひとまずモール内のマップを探すことにした。


 そして歩くこと数分後……。俺は疲れて適当なベンチを見つけて腰を下ろしている。


 普段運動をしていない弊害と、慣れない人混みによって息を切らしてしまったというわけだ。我ながら情けない。


「はぁ……」


 俺が一人大きなため息をついた時、不意に声をかけられた。


「あれ、あなたは確か……秋月さん、でしたか?」

「え……」


 俺は顔を上げて声のした方を見ると、そこには俺もよく知る人物がいた。


「わ、若柳さん?よく俺の名前を……」

「ふふっ。クラスメイトの名前くらい、当然覚えていますよ」


 さすが、完璧美少女と言われるだけのことはある。まさか、普段息を潜めて過ごしている俺の名前まで覚えているとは。


「それより、何かお困りのようでしたけど、どうかされたんですか?」

「あー、実は迷ってしまって……」

「なるほど……。そういうことでしたら、私が案内しますよ!こう見えて、このショッピングモールには何度か訪れているんですよ?」

「それは助かるな」


 まだオープンして間もないこの店の地理を把握しているというからには、すでに何度か訪れているのだろう。


 もちろん、別に意外ではない。さすがリア充だという感想が浮かび上がってくるだけだ。


 とりあえず、俺は若柳の好意に甘えて案内してもらうことにした。この時の俺は、「完璧すぎて苦手とか思ってごめんなさい」などと、くだらないことを考えていた。




***




「はい、着きましたよ」

「ほんとだ……。本当にありがとう。余計な時間を使わせて悪かった」

「いえいえ。クラスメイトですので」

「何かお礼をしたいんだが……」

「私も特に急いでいるわけではなかったので、本当に気にしないでください。それでは!」

「あ、ちょっと!」


 急いでいるわけではないと言った割に、若柳は俺が呼び止める間もなく去ってしまった。


 親切をしても見返りを求めない。改めて、若柳真夜が完璧美少女とまで呼ばれる所以がわかった気がする。


「あー、お兄遅いよー!」


 俺がしばらく立ち尽くしていると、結菜が声をかけてきた。


「そろそろ帰らないと、お母さんが心配するよ」

「ああ悪い。今すぐ帰ろうか」


 結菜と他愛無い会話をしながら帰路に着いたその日、俺は特に意味もなく、若柳のことを考えていた。






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「若柳真夜は完璧美少女です!」

 

 果たして、この先も同じことが言えるのか……。




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