第5話 Eランク冒険者のラインハルトですわ


翌日、俺は冒険者活動をするためにギルドにきて入れてくれるパーティを募集してみたが誰も入れてくれない。


「貴族の坊ちゃんがくるようなところじゃねぇぞ」

「そうだ。帰ってママンのおっぱいでも吸ってな。ギャハハ」


それどころか下品に笑ってくる男ばかりだった。


そんな中ひとりの男が


「おいおい、貴族の坊や。冒険者の厳しさ教えてやるよ」


俺に唾を吐きかけてきた。

なにもしていないのに。


「なんやねん。お前」


俺は渾身の力で男の腹に殴りかかった。


「やったな?!ガキ!」


バキっと俺を殴りつけてくる男。

その時


「よせや。何を子供相手にムキになってんだよ」


デカい男がそう言いながら俺に歩み寄ってきた。

それを見て俺にちょっかいを出していた男達は逃げ出す。


「よう。貴族のガキ。なかなか度胸があるようだな」


その男は俺を見下ろしながら口を開いた。


「俺の名前はアックス。お前冒険者ランクは?」

「Eランク冒険者のラインハルトですわ」

「お嬢様言葉か?随分育ちがいいらしいが」


いや、違うんだけど。

ただの関西弁なんだけど。


勘違いされているようだ。


「まぁいい。俺はアックス。Dランク冒険者だ。貴族のガキがこんなところにくるなんて珍しい話だ。お前の度胸を見込んでしばらく俺のパーティに入れてやる」

「本当か?」

「本当だ」


頷くアックス。

しかもCランク冒険者だという。


「俺がお前を育てたる」


そう言って俺と隣にいたリーナのパーティ加入を認めてくれるアックス。


「丁度二人人手が欲しくてな。女の方は分からんがラインハルト。お前は筋が良さそうだ。磨けば輝く原石に見える」


そう言ってくれるアックス。

そのままギルドの方に俺たちのパーティ加入手続きをしてくれた。


これで俺たちは晴れてアックスのパーティに加入できたようだ。


ここまでくるのに数時間かかったが最後にはパーティに加入できた。


初めは乙女ゲーの世界観を無視して冒険者になんてなっていいのか分からなかったがどうやら世界は俺を認めてくれているらしい。


「じゃ、今日から宜しくなラインハルト。アンジェリーナ」

「「よろしくですわ」」


俺とリーナ二人分の声が響いた。



リーナと共に早速俺はまず狩の基本をアックスから教わっていた。


「いいか?これから冒険者として活動するに当たって出てくるモンスターってのはお前らがギルド登録の時に倒したようなスライムじゃねぇ。もっともっと強いんだ」

「やっぱりそうなのか」

「あぁ。スライムの強さが0だとすると1から100まで色々出てくる」


アックスの言葉に頷いた。


それこそゲームに出てきたたドラゴンとかオークなんかも出てくる、ということだろう。


「ギルド登録試験のスライム、弱かったろ?」

「そうだな。弱かった」

「あんなもんカカシだからな。ほら、見てみろ」


そう言ってアックスは俺たちの視線の先にいるゴブリンを指さした。


そこではゴブリンが武器を持ち右往左往していた。


「あいつらは攻撃してくるし逃げる。それは分かるな?」


こくりと重く頷いた。


「俺たちの仕事ってのはそんなモンスターと命のやり取りをする仕事だ。心してかかれよ。モンスターも生きてるんだ」


アックスはその後も俺たちに色々と狩の基礎とか心得とかを教えてくれた。


「よし。じゃあゴブリンを倒してこいラインハルトとリーナ」


俺たちの背中を叩いてくるアックス。

俺たちは茂みを飛び出すとゴブリンの前に立った。


「ギィッ?!」


早速俺はゴブリンのステータスを見た。


「はっ。レベル1か。余裕ですわ。なぁ?リーナァ!ケツ任せたぞ!」

「の、望むところですわ!ラインハルト様!」


俺はリーナより先に飛び出すと


【スラッシュ】を発動させた。


「ギィッ!」


横に飛び退くゴブリン。

リーナに声を出して連携を取る。


「リーナァ?!分かってるなあ?!」

「ふぁ、ファイアボール!」


ゴォッ!と炎の豪速球が飛んでくる。

それがゴブリンの額を掠めた。


「ギィッ!!!!」


俺はそんなゴブリンに近付くと更に【スラッシュ】を発動。


ザン!!!!!


「はっ。こんなものか。大したことないですわ」


吹き飛ぶゴブリンの首。

吹き出すゴブリンの血を見ながら俺はアックスの近くに戻る。


アックスに次の指示を仰ごうとしたその時だった。


重い巨体を揺らす足音が響いた。


「なんだ……これ」


俺は呟いて足音の聞こえた方向を見る。

それは先程俺がゴブリンを倒した方向から聞こえていた。


そこには巨大なゴブリンが立っていた。

体長5メートルくらいだろうか。


「ビッグゴブリンだ」


アックスはそう呟いた。


「逃げるぞ」

「倒さないのか?」

「今の俺たちの目的は帰ることだ。あいつを倒すことでは無い。目的を履き違えるな。それに今のお前たちでは勝てるかどうか不明だ」


なるほど。

勝てない戦いはするものではない、ということか。


面白いな。

自分と相手の力量差を見て勝てる相手とだけ戦っていく。

リアルな世界観。


俺はアックスの言葉に頷いて走り出したが、俺たちを追いかけてこようとするゴブリン。


「足を早めろ。気付かれている」


アックスにそう言われて足を早くしたアックスに頑張ってついていく。

そしてしばらく進んだところで泥沼が見え。


「飛び込め。臭いを消すんだ」


アックスにそう言われ俺は戸惑うことなく泥沼に飛び込んだ。

臭いを消さなくてはならない。


その後もアックスが飛び込んできたが、リーナだけは足が動かないらしい。


「早くしろ、リーナ」

「で、でも、お洋服が……」


アックスがリーナを急かしているが、俺はそれを聞きながら泥沼から上がるとリーナの手を掴んだ。

そして


「文句は後にせぇよ。口と目閉じとけや。ついでに呼吸も止めとけや」

「きゃっ!」


リーナと共に泥沼に飛び込む。


シーン。


俺たちが立てる音は無くなったが。


代わりに聞こえてくるのは。


ズシーン、ズシーンとゴブリンの歩く音。


その音はだんだん近付いてきた。


「ギィーーーーー」


ここで俺たちの臭いが途切れていることに気付いたのか泥沼を覗き込んでくるゴブリンの顔が薄らと見えた。


(早く行け!!!息苦しい!!!)


俺がそう思って息を殺していると。

やがて、俺たちの臭いが消えて追えなくなったからか。足音を鳴らしてゴブリンは去っていった。


「もういいぜ二人とも」


アックスの声が聞こえて


「ぷはっ!」

「はぁっ!げほっげほっ!」


俺とリーナは泥沼から出てきた。

はぁ、死ぬかと思った。


こんなに息を止めたのいつぶりだ?

プールの授業の潜水以来な気がする、とか思った。


でも、これだよな。

俺の求めていたものって。


乙女ゲーの世界、初めは気に入らなかったが意外と俺向けの世界なようですわ。

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