第2話 夢は冒険者ですわ

翌日の朝。


「起きてくださいラインハルト坊っちゃま」


昨日の執事に起こされて眠いのに起こされて俺は食堂まで連行された。


飯くらい好きな時間に食べさせて欲しいが。

そうもいかないのが貴族らしい。


食堂に入り椅子に座る。


「よっこいしょ」


おっと、いけね。

まだ若いのにおっさんみたいな言葉が口から漏れた。


とても12才の口から出たものとは思えない。


「なんだね。ラインハルト」


俺の向かいに座っていた男が口を開いた。


それはラインハルトの父親のグータ。

厳しそうで怖そうな男だ。


「そのよっこいしょ、とはなんだ?」

「す、すんません。俺の中での食事前の挨拶です」


謝って目の前にあった食事に手をつける。


「うんめぇなぁこれ」


俺がそう言ったら鬼のような形相になる父親のグータ。


「さっきからなんなのだ?貴族である我々は上品に常に振る舞わないといけないのだぞ?」

「すんまへんなぁ。つい口から出てもうたわ」

「?????」


首を傾げる父親。

やべぇ。


ぼろ出しまくりじゃねぇかよ俺。


「あははは、気にせんでくれ」

「父親に向かってなんだその口のきき方は」


そう言ってガタッと椅子を引いて立ち上がる父親。


やべぇ、怒らせたか?


「口のきき方については口を酸っぱくして教えてきたぞ?!!ラインハルト!聞いているのか?!バカもの!!!!」


怒鳴ってくるグータの声を聞いていると俺もなにか思うことがある。


たかだか20代やろうがお前。

こちとら30ちょいプラス今の年齢やぞ?


実年齢分かっとんかいな。


「やかましいねん!若造が!誰に言うとんのか分かっとんか?!」


はっ、言いすぎた!

やべ、訂正しよ。


「誰に仰っているのか分かっておりますか?お父上様。俺ですわ、ラインハルトですわ。たまたま今日は熱が出ておりますだけですわ」

「そうだな。今日のお前は変だ」


やっと腰を落ち着けてくれたグータ。

それから上品にナイフとフォークを使ってカチャカチャと食事をしていく。


俺の食べ方とは天地の差だった。

育ちの良さが伺えるというやつだが。


「はぁ……」


溜息を吐いてナイフとフォークを置いて俺は立ち上がった。

こんな気持ちで飯なんて食えるわけもない。


美味いもんは気持ちよく食べる。

それが俺の信条なんですわ。


「どこへ行く?ラインハルト」

「もういい、お腹いっぱい。ごちそうさん」

「頭を冷やしておけよ。グズが。我が家の恥だぞ貴様は」


そう言われながら氷を投げつけられた。


俺は食堂を出ていった。


「暇だなぁ」


部屋に戻った俺だったが貴族は暇らしい。

やる事がねぇ。


しかも乙女ゲーの貴族なせいで余計にやることないんだろうな。

てか乙女ゲーの貴族って普段なにしてんの?


やっぱ女主人公をチヤホヤしてたりすんのかな?

でも


「女のことチヤホヤしたくねぇよ!」


原作主人公のことなんて知らない。


異世界まで来て女の機嫌を取るだけの人生だと?

そんなものはやっぱりゴメンだ。


そんなストーリーは破棄いたしますわ!


「決めた。乙女ゲーなんて全部ぶっ壊してやろう」


そう決めた俺は早速家を出た。

情報集めだ。


意識が目覚めた時に埋め込まれるようにして得た知識はこのゲームのストーリー展開に関わるものだけ。

他のものは俺は一切知らない。


「この世界モンスターとかいるんかな?」


そんなストーリー展開にあまり関わらない話は知らない。

少なくとも俺の知識にない事だ。


街に出てみよう。


テクテク歩いて屋敷の外に出ると


「はぁ……はぁ……」


アーククリーナーみたいな名前の俺の不倫相手の女が肩で息をしながら立っていた。


「どうしたん?そんな肩で息して」

「はぁ……はぁ……ラインハルト様を追いかけてきたのですよ。もう私たちを邪魔するのもはいなくなりました。婚約を……」

「いや、知らん」


婚約?

する訳ないだろ。めんどくせぇ。


中身おっさんの俺がお前ら乙女の思ったように動くと思わないことですわ。


女の横をスタスタと素通りしていくが


「お、お待ちください!知らんってなんですか?!」

「だから、触らんでくれ。興味無いからそういうの」

「きょ、興味ないって?!ラインハルト様は私の告白をOKしてくださったではないですか?!」

「忘れてくれよ」


それは俺の意識が宿る前の話であり、今の俺は知らん。

テクテク街の方に歩いていくことにするのだが、付いてくる女。


丁度いいな、こいつに聞こう。


「この世界ってモンスターいる?」

「え、えぇ、いますけど」

「それを狩る冒険者とかってのもいる?」

「も、もちろんですけど。庶民の人間の仕事ですよ」

「決めた。俺はその庶民になる」


元々俺に貴族など向いていないのだ。

そっちの方が絶対に性に合ってる。


「え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!!!!!!な、なぜ、そのようなことを?!3K(きつい、きたない、危険)な仕事ですよ!」


俺の前世は工場の作業員だ。


学校では運動音痴とか頭が悪いせいで馴染めずにいじめられて不登校になりそんな俺が最後に流れ着いた場所だった。


社会のゴミみたいな人間だった。

そんでその仕事を何連勤もさせられて俺は過労死した、それが俺の人生。


だから正直3K程度今更だし、そういう生き方の方が合ってるだろう。


「別に気にしてない。俺は冒険者目指すから。じゃあな。良い奴見つけてくれよ」


ギルドと書かれた建物が見えた俺は女を放置して歩いていこうとしたが、ガシッと腕を掴まれた。

振り向くと女が俺を掴んでいた。


「こ、このアンジェリーナを試そうということですね?」

(アーククリーナーじゃなかったな。アンジェリーナか。覚えとこ)

「分かりましたよ。私のあなたへの愛を証明しますわよ。ラインハルト様。私はあなたへついていきます」


なんか付いてくることになった。

別に試してるつもりはないけど勝手に都合のいいように解釈したらしい。


「ええやん。気に入ったわアーククリーナー」

「アンジェリーナです。リーナとお呼びください」


間違えたのを訂正してくれるリーナ。

よし。今度こそ覚えた!


そんなリーナを連れて俺はギルドの扉の前に立った。


「じゃあ、行くぞ。3Kの職場にな」

「望むところですわ。ラインハルト様となら3Kでも4Kでもドンと来いよですわ」

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