第4話
少年が目を覚ますと、女と刑事が同じソファーに座って少年を見つめていた。心なしかふたりとも顔色が優れない。
「まさか……」
少年は女が警察に買収されたのだと思い至って立ち上がった。そして女を鋭い視線で見下ろした。その女が言い訳のように口を開いた。
「お金ってね、自由に使えてこそ意味があるのよ」
刑事は横で口を噤んでいたが、少年はその表情を見て絶望した。
「で、どうするの?」
少年は刑事を見て言った。父と交わした秘密の約束。それを知って、この刑事はどうするのか。自分を罰するべく捕まえるのか、それとも……。
「どう、と言われてもな。ただ、ひとつこちらからも伝えなければならないようだ」
何を伝えるというのか。逡巡している刑事を、少年はただ静かに待った。
「君のお父さんは生きている。いや、生きているはずだ」
まだ半分夢の中にいた少年は、自分の父親はあの時自殺したと信じている様子だった。だが、刑事は知ってしまっていた。マスコミに発表された犯人死亡の報は嘘だったと。上層部の一部しか知らないその情報を知ってしまったのは、ただの偶然だった。
秘密裏にその身柄を国外追放同然に隠された少年の父親は、接触できたひとりの刑事に自分は死んだことにしたうえで「息子を頼む」と伝えていた。それがこの刑事だ。
「生きてる? 嘘だね。それなら連絡ないのはおかしいよ」
確かに少年の言う通りだ。だが、少年から十年前の「約束」を聞いた刑事には、父親が唯一守るべき息子に連絡をしない理由が推測できた。息子に課してしまった残酷な運命に対して、まだ罪の意識にさいなまれているのだ。
「確かにその通りだし、生きていたのを確認したのはあの事件の一週間後だ。今の生死を確認する術は自分にはない。だが……」
刑事は少年の目を見て一度深く呼吸をした。少年には、刑事の目が不思議と父親のソレに似て見えていた。
「君の無事は、きっと君の父親に伝わっているはずだ」
この女への入金。それが少年の父親からだという証拠は今のところない。むしろ、彼にそんな金を用意する力はないはずだ。それでも、刑事はその可能性に賭けたいとすら思っていた。
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