Phase 07 過去
「アタシは帰らないわよ。女だからって、ナメないでくれる!」
その瞬間、興梠篤人に握られていた拳銃が蹴り飛ばされた。拳銃は宙を舞い、そのまま地面に叩きつけられた。
「何だと、このクソビッチ!」
「クソビッチは失礼ね! アタシだって立派な人間よッ!」
そして、碧はそのまま興梠篤人の
「アタシの大事な薫くんに傷を付けるなんて、アタシが許すとでも思うの?」
「クソッ……ず、ずらかるぞッ!」
「は、はい!」
「ちょっと! 逃げるなんて人間として最低よッ! ベーッだ!」
そうして、興梠篤人率いる祖露門の面々はそのまま去っていった。僕は、救われたのか? 生きた心地がしないので、改めて碧に話をすることにした。
「碧、どうして僕がここにいるって分かったんだ」
「うーん? 女の勘ってヤツ?」
「そうか。それにしても、碧が助けに来てくれなかったら僕はこの世にいない。感謝しているよ」
「そう? だったらいいけど。じゃ、帰りましょ」
「帰るって、どこにだ」
「アジトに決まってんじゃん。まあ、仮のアジトだけど」
「そうだな。戻ろう」
こうして、僕と碧はアジトへと戻ることにした。
「結局のところ、アンタは興梠篤人に殺されかけた。それは合っているよね」
「ああ、合っている」
「それで、どうして薬研くんがあちら側にいたのかは分かるの?」
「それは分からない。でも、拓実が僕たちのやり方に対して嫌気が差していたのは事実だ」
「そう。でも、それってブラフって可能性もあるんじゃない?」
「ブラフ?」
「まあ、分かりやすく言えばハッタリよ。何らかの理由があって、薬研くんは祖露門に対して嘘を吐いている。そういう事なんじゃない?」
「そうか。しかし、彼の真面目な性格的にそれはあり得ないのでは」
「そう言えば、薫くんに説明するのを忘れていたんだけど、薬研くんって元々警視庁の組織犯罪対策課の警官なのよね」
「組織犯罪対策課か。警視庁の中でも組織犯罪や暴力団による犯罪を中心に扱う部署だな。それがどうしたんだ」
「彼って、訳ありで休職中ということになってんのよね」
「訳あり?」
「アタシにも詳しくは分かんないんだけど、どうもある職務中にしくじって懲戒処分を受けたらしいのよ。それで、行き先を失くしてここにたどり着いたってわけよ」
「なるほど。それは、彼のプライバシーに関わるからあまり触れないほうがいいな」
「そうね。これは秘密にしておきましょ」
「なんだか疲れたな。僕はもう寝るよ」
「おやすみ」
こうして、僕は眠りについた。なんだか、今までの疲れが出たのか、僕は長い夢を見ていた。警視庁の組織犯罪対策課に配属されていて、颯天会を追うために潜入捜査をしている夢だった。そして、僕は颯天会の幹部を突き止めることに成功したのだけれど、そのときに威嚇発砲で放った銃弾が颯天会の幹部の急所に当たってしまった。当然、幹部は即死。僕は、組織犯罪対策課から追放された。目が覚めると、汗をびっしょりとかいていて、心臓の鼓動が強く脈を打っていた。夢にしては、あまりにも生々しすぎる。
――仮に、この夢の内容が薬研拓実の過去だとしたら……? 僕はそんな事を考えたのだけれど、矢張り所詮は夢の話である。
俺は、ある出来事を思い出していた。それは、組織犯罪対策課でしくじった時の出来事だ。どうせなら、薫のようにその時の記憶を失いたいのだけれど、あまりにも強烈な出来事すぎて忘れられない。俺は、祖露門のメンバーをこの手で殺してしまったことがある。それは、不可抗力であり、抑止力でもあった。具体的に言うと、俺は威嚇発砲で拳銃を祖露門のメンバーに向けた。しかし、当たりどころが悪かった。銃弾はメンバーの急所に直撃して、そのまま命を落とした。当然ながら、俺は組織犯罪対策課を追放された。懲戒免職で済むレベルではなかったのだ。そして、身寄りの無い俺はそのまま歌舞伎町を彷徨っていた。捨てられた子犬のようになっていた俺に手を差し伸べたのが、紛れもなく鯰尾薫という人物だった。鯰尾薫はとある事情で警官の道を諦め、私設の探偵団である「歌舞伎町トラブルバスターズ」を立ち上げるために奔走していた。治安が悪く、トラブルが多い歌舞伎町ならこういう仕事でも成り立つのだろうと俺は思っていた。そして、俺はそのまま鯰尾薫の
「薬研さん、何ボーっとしているんですか?」
「あぁ、考え事だ。気にしないでくれ」
「薬研さん、本当は祖露門の一員になりたくなかったのでは無いのでしょうか?」
「そんな事はない」
「だったら、いいんですけどね」
――この手で祖露門のメンバーを殺したなんて、口が裂けても言えるはずがない。これは、俺の忌々しい過去であり、秘密でもあるのだ。
それからというもの、俺は祖露門の一員としてやれるべき事はやってきた。北朝鮮から密輸されてきた覚醒剤に手を出したこともあった。覚醒剤を服用すると、心臓の鼓動が強く脈を打つような気がして、呼吸が荒くなる。その分、「何でもできる」ような気がして、俺は無敵の人間になった。もちろん、それは覚醒剤によるモノなので、薬が切れると禁断症状に苦しめられるようになった。
ある日、俺は祖露門の会合に出席することになった。何でも、颯天会に現金を輸送するという任務を請け負うことになったらしい。現金は韓国からやって来て、川崎の半グレ集団を経由してこの場所へとやって来たらしい。その額、およそ5億円。要するに資金洗浄というか、マネーロンダリングを任されたことになる。
「というわけで、この仕事は薬研さんにやってもらおうか」
「俺でいいんですか?」
「いいんだ。この仕事はお前じゃないと務まらない」
「なるほど。しかし、歌舞伎町からどうやって六本木まで運ぶんですか」
「こちらでカモフラージュ用の現金輸送車を用意した。これなら怪しまれないだろう」
「ありがとうございます」
「責任は重大だからな。後は任せた」
こうして、俺は現金輸送を任される事になった。果たして、これでいいのだろうか。俺は、このまま祖露門に骨を
――そして、そのまま現金輸送車のドアを閉めた。
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