Phase 01 手負いの僕ら
「ニュースです。昨晩歌舞伎町で発生した雑居ビルの火災事故ですが、死者はいませんでした。怪我人に関しては、煙を吸った事に関する怪我人が5人、ビルから飛び降りたことによる怪我人が2人です。消防庁では、一連の火災事故に関して『事件性がある』として、警視庁とともに調査を進めています」
あれから、僕と綺世は病院へと運ばれた。まさか発見した人も空から人間が降ってくるなんて思ってもいなかっただろう。ある意味、50パーセントの悪運が味方してくれたのは言うまでもない。
「もう、『無茶しないで』ってあれだけ言ったのになんで無茶しちゃうのよ」
「仕方ないだろ。緊急事態だったんだから。それより、綺世の方は意識を取り戻したのか」
「まだ意識を取り戻してないわよ。打ちどころが悪かったのでしょ」
「まあ、5階の高さから飛び降りたら何かしらの衝撃を受けるのは言うまでもないからな」
僕は運良くゴミがクッションになってくれたのだけれど、綺世の方は頭を強打してしまった。普通の人ならそこで即死なのだけれど、碧の話によるとなぜか綺世の心臓は微弱ながら脈を打っている。つまり、綺世に対して何かしらのアクションを起こせば意識は戻るかもしれない。しかし、現状では何をすればいいのか分からない。アジトを失い、メンバーの一人も昏睡状態になってしまった。「歌舞伎町トラブルバスターズ」は言わば手負いの状態である。
「これから、どうすればいいんだろうか」
「まずは綺世くんの意識を取り戻すことね。それから考えないとダメよ。あっ、アジトはアタシの家を使えばいいわ。所謂『訳あり物件』に住んでいるけど、それなりに使えるはずよ」
「そういえば、僕は碧の家をよく知らなかったな。丁度いい。案内させてもらうよ」
「狭いけど、『住めば都』って言うじゃない。まあ、5人も入ればギュウギュウだけど」
「そうか。綺世に拓実に彰悟に律、そして僕で5人か。碧も入れたら6人じゃないか」
「骨喰くんにはアタシの方で連絡しておくから、薬研くんと厚藤くんに連絡しておいて。多分、あの2人はアジトが焼け落ちたことをまだ知らないから」
「そうだな。というか、碧は律の事を知っているのか」
「まあね。アンタは記憶を失っているかも知れないけど、アタシと骨喰くんは昔からの顔なじみなのよ。善く言えば幼なじみ、悪く言えば腐れ縁よ」
「なるほど。だからって、恋愛感情は抱いていないよな」
「あんなチーズ牛丼食ってそうな顔のオタクに、そんな感情を抱くわけがないじゃないの」
「そ、そうか……。それはともかく、僕は拓実と彰悟に連絡を入れておく。律への連絡は碧に任せた」
「分かったわよ。任せなさい」
こうして、僕と碧はそれぞれのスマホにショートメッセージ連絡を入れた。アジトで火災が発生したこと。脱出の際に綺世が意識を失ったこと。そして、祖露門の魔の手が僕たちに迫っていること。恐らく、碧も律に対して多少のツッコミはあったとしても連絡は入れているだろう。それにしても、綺世は意識を取り戻すのだろうか。そんな事を思いながら、僕は病室の天井を見上げる。無機質な模様が、うじゃうじゃと波を打っている。そう言えば、この天井の模様は大理石を模していると聞いたな。しかし、僕には何かの生命体の脈にしか見えなかった。気持ち悪い。
やがて、面会時間が終わったことによって僕は「1人の時間」を過ごすことになった。とあるホストに腹を刺された時もそうだったけど、この「1人の時間」というのが僕は苦手だ。果たして綺世は意識を取り戻すのだろうか。そして、僕は色んな意味でバラバラになってしまった「歌舞伎町トラブルバスターズ」を再建できるのだろうか。
――そんな事を思いながら、月のない夜を見上げていた。
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