Final Phase 最後の質問
心臓の鼓動が爆発しそうなほど脈を打っている。僕は、緊張していた。これは一世一代の賭けであり、しくじれば「歌舞伎町トラブルバスターズ」の存続の危機にも繋がる。そっと深呼吸をして、僕は言葉を発した。
「本村さん、猪垣さん、僕からの最後の質問です。あなたは、祖露門をどういう風に思っているのでしょうか? 別に、その答えで僕が不都合を
「分かりました。まずは、僕、本村准二から発言させていただきます。僕にとって祖露門は特段悪い組織だとは思っていませんでした。普段から飲み会で接する事は多かったんですけど、優しい兄貴といった印象で、それが半グレ集団だとは気づかなかったんです」
「続いて、僕、猪垣快彦から発言させていただきます。僕は先程申し上げた通り、元々暴走族『川崎震龍陀亜礼』のリーダーでした。言わば元ヤンです。でも、こんな僕を拾ってくれた今は亡きジョニー
「そうですか。でも、君たちが接していたのは悪い組織であることに変わりはない。だからこそ、公共の面前で謝罪すべきだと思うんだ」
「そうですよね。では、土下座させて頂きます」
「僕も土下座します」
2人が壇上の前に立つ。そして、無数のフラッシュが焚かれる中で土下座をした。これで彼らが報われるかどうかは、分からない。けれども、コンプライアンスが厳しいと言われるジョニーズ事務所からの退社は辞さないだろう。この先、2人は活動拠点をテレビからインターネットに移すことになるだろう。インターネットなら、コンプライアンスを気にせず配信できるというメリットがあるし、元アイドルがインフルエンサーになるとすればチャンネル登録数は右肩上がりに上昇するだろう。ただし、祖露門とコネクションを持っていたという烙印を消すことは出来ない。それだけは確信していた。そして、会見は2人の土下座を
数日後。僕は、2人が動画配信サイトで新しいチャンネルを開設した事を見つけた。動画は一連の会見に関する謝罪から始まっており、それからジョニーズ事務所時代の話を色々とぶっちゃけていた。「アイドル」は日本語で「偶像」を書かれる事が多く、アイドルのファンは言わば「偶像崇拝」といったところである。僕は、その動画を鼻で笑いながらブラウザのバツボタンをクリックした。ちなみに、登録者数は1万人を超えていたので、彼らのインフルエンサーとしての活動は安泰だろうと思っていた。
「薫くん、お疲れ」
碧がアジトにやってきた。当然、彼女がアジトに来るのは一連の騒動の後では初めてである。アイドル好きの彼女は一連の騒動でショックを受けていると思ったが、その反応は意外なものだった。
「アタシ、思ったんだけど、矢っ張り『アイドル』って所詮は『偶像』なのよね。偶像の意味って、知ってる?」
「ああ、絶対的な権力として崇拝の対象になるべき像のことだよな」
「だから、アタシは今まで『ただの像』を崇拝していたってわけよ。薫くんのお陰で、少しは目が覚めたわ」
「少しはってことは、まだ完全に目が覚めてないってことか」
「そういう意味じゃないわよ。少しは言葉を真面目に受け取る癖を直しなさいよ」
「そうだな。ゴメン」
「いいわ。その代わり、ラーメン奢って」
「いきなりどうしたんだ」
「三郎ラーメンが食べたくなったのよ。ストレスが溜まっていたのかしら」
「さ、三郎ラーメン……」
三郎ラーメンとは、歌舞伎町を中心に展開しているラーメン店である。名前を見れば分かるが、ドカ盛りで有名なラーメン店から
「野菜マシマシニンニク多めでお願い」
「僕は……並盛りで」
とてもラーメンとは思えない、クトゥルフ神話の邪神のような物体がテーブルの上に置かれていく。碧は、それを脅威のスピードで食べていく。僕は、もやしの塊を食べるので精一杯だった。とても麺まで辿り着けない。
数分後、僕と碧は無事に三郎ラーメンを食べきった。胃が
「ゲフッ」
「薫くん、意外とそういうのが苦手なのね」
「仕方ないだろ。僕は少食だ」
「もう、仕方ないんだからっ」
僕は、碧から頬に手を触れられた。少し恥ずかしいなと思いつつ、僕は碧に身を委ねることにした。
――この幸せが、いつまでも続けばいいのに。
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