Final Phase 病室のベッドの上で
雲雀丘彪流、もとい興梠雄介が逮捕されて1週間経った。ホスト界でそれなりに名の知れたホストが殺人の容疑で逮捕された事は、業界を震撼させた。それも、
僕はというと、結局のところ2週間の入院を余儀なくされた。急所の近くを刺されたからそれぐらい当然だろうと思いつつ、
「薫くん、あれから体調はどう?」
「まあ、それなりかな。それにしても、僕は運がいい。お医者さんから聞いた話だと、急所から1ミリ外れたところを刺されていたらしい。つまり、1ミリズレていたら僕はその時点でもうこの世にいない」
「そうね。悪運も味方につけないとこんな仕事やってられないよね」
「あぁ、次からは犯人に刺されないように気をつけるよ。今は警察沙汰になる前のトラブルを解決することが多いけど、今回は結局警察のお世話になってしまった。僕たちは飽くまでも警察沙汰になる前にトラブルを解決することが使命だ。警察沙汰になってしまったら、その時点で僕たちの仕事は終わりだ」
「その辺のバランスの
「そうだな。でも、今回の連続毒殺事件で学ぶことは多かった。今後の
「つまり、アタシの仕事は成功したって事?」
「まあ、半分成功で半分失敗といったところかな。でも、初めてにしては上出来だ。次からも頼む」
「ありがと。そうだ、これ、お見舞いのケーキ。鷹嶋屋でスイーツフェアやっていて、思わず買っちゃったの」
「僕はあまり甘いモノが好きじゃないけどな。碧からのお見舞いだったら有り難く頂くよ」
僕は、碧が買ってきたザッハトルテを頬張ることにした。ビターチョコの苦味が、口いっぱいに広がる。
「これ、美味しいな。どこのケーキだ」
「神戸? 芦屋? なんかそっちの方だった。アタシは関西の地理は全く詳しくないけど、兵庫なのは間違いない」
「なるほど。僕の親戚が神戸にいるらしいけど、詳しいことは善く分からない。なんでも、兵庫県警の組織犯罪対策課で刑事をやっているらしい。確か、名前は
「へぇ。関西に親戚がいるのが羨ましいなぁ」
「そんなに羨ましいのか。まあ、いつか神戸に案内してやる」
「ありがと」
「もしかしたら、親戚の方からこちらに来るかもしれないけどな」
「矢っ張り、出張とか?」
「それはどうだろうか。まあ、その時が来たら紹介してやる」
「そうね。待っているわ」
こうして、面会時間が終了したので碧は帰っていった。独りぼっちの病室のベッドの上で、僕はスマホのゲームで遊んでいた。
「また50位かよ……。最後まで勝ち残るには矢っ張り課金しないとダメなのかな」
こんな独り言でも、口に出したほうがマシだ。そして、テレビの電源を点ける。
「次のニュースです。兵庫県神戸市北区で山谷組系の暴力団員が逮捕されました。神戸市北区では、分裂した山谷組系の暴力団による抗争が勃発しており、住民からの苦情が殺到していました」
液晶画面に映る無精髭の刑事。もしかしたら、彼が僕の親戚かも知れない。そう思いつつ、僕はそのニュースをスマホで調べることにした。
――矢張り、僕は警官になるべきだったのだろうか。
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