Phase 01 奪われた命
「薫、今回の依頼っす」
「まったく、また事件かよ。この間子供の薬物汚染を解決したところじゃないか」
「そうは言うけど、あの薬物汚染は氷山の一角にすぎない。俺たちが解決しないといけない事件はまだいっぱいあるっすよ」
「はいはい。で、依頼人は誰なんだ」
「ホストクラブの『店長』らしいっす」
「こりゃまた歌舞伎町らしい依頼だな。報酬も弾んでもらおうかな」
「カネの事は置いといて、こっちが依頼人っす」
「どうも。依頼人の
「えっ、歌舞伎町の『皇帝』って呼ばれているあの桜庭紫苑っすか!?」
「しーっ。薬研さん、声が大きいですよ」
「す、すみません……」
「それはともかく、君たちにはある変死体の謎を調査してほしいんだ」
「変死体?」
「ウチの常連客で所謂『ホス狂い』と呼ばれる『姫』だったんですけど、ある日突然店から姿を消してしまって……。部下に頼んで『姫』のマンションへ向かったら、変死体の状態で見つかったんですよ」
「名前だけでも教えてくれないか」
「もらった名刺には『
「なるほど。職業とかは分かるのか」
「職業までは分からないですね。でも『ホス狂い』と呼ばれる子の大半は普通に働きながらデリヘルや風俗嬢で生計を建てますからね。彼女もまたそうだったんじゃないでしょうか」
「確かに、ホストに対して貢ぐ金額は平均で50万円、多い場合は100万円を超えると言いますからね。普通の職業では稼げないでしょう」
「それで、鯰尾さんでしたっけ? 君たちにはこの殺人事件を調査してほしい。もちろん報酬は弾ませてもらうから」
「ああ、分かった」
こうして、僕たちは殺されたホス狂いの事件を捜査することになった。とりあえず、僕は堂安亜由美が住んでいたマンションへと向かう。彼女が住んでいたのは歌舞伎町の近くにあるマンションであり、通称「ヤクザマンション」と呼ばれていた。所謂「訳あり物件」であり、住民は暴力団関係者が多い。しかし、東京の一等地にありながら家賃は格安である。だからこそ、彼女はそこを
彼女が住んでいた部屋に入ると、鼻をつく異臭がした。辺りには大きな
――あの少女は、所謂「トー横キッズ」なのではないのか?
それから、僕は変死体に対して不審なところがないか調べていったが、特に変わったところは見当たらなかった。向精神薬の
「薫、何か分かったか?」
「いや、何も分からない。拓実こそ、何か分からないのか」
「俺も全然分からないっすよ。第一、まだ自死か他殺か分からないじゃないっすか」
「そうだな。一回引き上げよう」
「その方が良いっすね」
「それと、拓実にはあのホストで情報収集を行って欲しい」
「俺っすか!? いや、そういうのは女の子の方が良いと思うんすけど」
「言われてみればそうだな。そう言えば、碧が『歌舞伎町トラブルバスターズ』に加入したいって言っていたな」
「碧って、噂のあの子?」
「まあ、ジョークだろうけど」
「それはどうっすかね」
「とりあえず、戻るぞ」
「へいへい」
こうして、僕と拓実は「歌舞伎町トラブルバスターズ」のアジト兼事務所へと戻っていった。ドアの前では、碧が待っていた。
「げぇっ! 碧!」
「薫くん、『げぇっ!』は無いでしょ、『げぇっ』は」
「そりゃ突然現れるとびっくりするじゃないか」
「それにしても、探偵ごっこをやっているって本当だったのね。まず『歌舞伎町トラブルバスターズ』って名前がダサすぎる。今どきの戦隊でもこんな名前は付けないと思うわ」
「そ、そりゃそうだけど……。矢っ張りトラブルを解決するならこの名前が一番しっくり来るかなって思って」
「まあ、薫くんが名付けたんだったら良いんだけど」
「そ、そうか……。ところで、一体何の用だ」
「記憶喪失気味な薫くんが覚えているかどうかは知らないけど、前に『アタシを歌舞伎町トラブルバスターズに入れてほしい』って話したよね」
「ああ、覚えている。丁度ホストクラブに潜入するために女手が欲しかったところだ」
「ホストクラブの潜入捜査なら、アタシがやるけど?」
「いいのか」
「こういうのって、なんかワクワクするじゃん?」
「そうか。なら、良いんだが」
こうして、碧は「歌舞伎町トラブルバスターズ」の一員になった。それも初仕事はホストクラブへの潜入捜査である。果たして、彼女に潜入捜査が務まるのだろうか。
――そう思いつつ、僕は前回の薬物汚染の報酬を元手に軍資金を調達した。
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