Act 02 狙われたホス狂い

Phase 00 トー横キッズ

 歌舞伎町は映画館が多い。僕がアルバイトしている帝都電鉄系のシネコンである110シネマズの新しい旗艦きかん店である110シネマズ新宿はもちろん、大阪を拠点とする老舗しにせ映画会社である梅竹ばいちく映画系の映画館や、日本映画で一番のシェアを誇る東堂映画が運営するシネコン・TODOシネマズ新宿があったりする。同業者ライバルのことも知っておきたいので、僕はTODOシネマズ新宿へと向かった。昔は新宿東堂劇場という名前だったらしいのだけれど、シネコンという時代の波に飲まれて新宿東堂劇場は閉鎖。そしてTODOシネマズ新宿として再出発を果たしたらしい。僕は、碧が勧めてくれた『ヤングガン マーベラス』の字幕版のチケットを購入した。この場に碧がいないのが残念だが、僕と同じ映画好きの碧が「面白かった」と言っていたのだから、間違いは無いのだろう。


『ヤングガン マーベラス』のあらすじはこうだ。アメリカ海軍がとある国家から機密情報を強奪すべく、引退した伝説のパイロットであるマーベラスを20年ぶりに招集。そして任務に挑むという話である。マーベラスの同僚にしてライバルであり、訓練中に死なせてしまったレーザーというパイロットの息子が任務のメンバーになっていて、彼との衝突の末に絆が育まれるという胸熱なエピソードが、僕の胸に深く刺さったのは言うまでもない。思わず泣きそうになってしまった。碧が納得するのも分かったような気がする。


 映画館を出ると、この時間帯にも拘わらず子供が多い。僕が見たのはレイトショーなので、上映終了時刻は午後11時を回っているはずである。しかし、広場の子供は減るどころか増えるばかりである。一体、この子供たちはどういう目的でウロウロしているのだろうか。後で綺世から聞いた話だと、最近TODOシネマズ新宿周辺をたむろしている子供が後を絶たないらしく、彼らは通称「トー横キッズ」と呼ばれているらしい。「トー横キッズ」は名前の通り「TODOシネマズの横にいる子供たち」から来ている。居場所の無い彼らは、ここでホストを引っ掛けたり、キャバ嬢を引っ掛けたりしている。挙げ句の果てには、パパ活をする女の子もいるらしい。こういうのがトラブルの温床になっているのは、僕が一番分かっているはずである。なんとかしないと、子供たちが犯罪に巻き込まれてしまう。


 そんな中で、僕はある少女が気になった。全身に自傷行為リストカットの痕が深く残っている少女が、ホストを引っ掛ける。そして、そのまま彼女はホストクラブへと向かっていった。何か不穏な空気が、僕の鼻をかすめた。あの子は一体どうなってしまうのだろうか。


 ――彼女の変死体が見つかったのは、それから1週間後のことだった。

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