第5話-▼お茶会と編入生 その1
翌朝、弟を捕獲しに行きました。案の定、弟は地味な変装して学院から抜け出そうとしていましたから捕まえるとは妥当な表現でしょう。彼の最近の態度や行動は母上の目に余るようでしたので、一応目の前にある現状は正当化できます。
そう、今はファウスト王国の第二王子を椅子に拘束しています。勿論、お茶を飲んだりお菓子を嗜む程度の自由は与えています。
「姉上!これはどういう事ですか?!何故王太子である私にこのような仕打ちをするんですか?!」
「私は母上から最近愚弟が勉学に励まず、訓練をおろそかにし、国政を習おうとせず、王宮から抜け出し王都で遊びまわっていると聞きました。そして母上はおっしゃいました、このバカ息子を何とかしろと」
ゲーム内では王太子は攻略対象の一人であり、典型的ではあるけど自分の夢とか語り、自由を欲する王子と聞いています。攻略したときも同情し、泣けるような話があると聞いたこともあります。ですが今は非常に我儘なバカ王子だと思い知らされます。綺麗ごとや夢事しか追いかけない者が上に立てば下にいる者たちの負担が増えるばかりだと実感します。
弟との応酬も小一時間も続いており、いい加減に猿轡をかまそうかと思うほど耳も頭も痛くなってきました。私たちの周りでお茶会の用意をしているメイド軍団やそれの指示をしているナタルも気まずい雰囲気から視線をそらしてなるべく避けている。このような状況でお茶会の準備が整ったところローザとアミルが到着しました。
「セオドア殿下、セオファニア殿下。お茶会にお招きいただきありがとう...ゑ!」
ローザは少し他人に見せられないような驚いた表情でしたが、すぐに笑顔を取り繕いました。少々引き攣っていますけど。アミルも一瞬呆気を取られていましたけど、無表情に戻りました。二人はタイミングが良くも悪くもギャーギャー喚くセオに猿轡をかます現場に居合わせてしまったからです。
「どうぞお座りください。弟の態度は前もって失礼させていただきます。アミルもどうぞお座りください」
ぎこちなくローザは婚約者のセオの隣に座る。アミルはローザの後ろに佇もうとしたが編入生達のためのお茶会でもある為、座るように促しました。セオはアミルを睨み、彼に対して蔑んだ態度を隠してもいません。
「さて」
「呼ばれて参りました!!A級冒険者パーティー“エル・ニーニョ”が一人、エメラルダ・ネルソン参上致しました!!」
「エメル、声が大きいよ、そして殿下たちに迷惑掛けちゃだめだよ~。すいません、同じく“エル・ニーニョ”のホラティオ・ネルソンです。妹共々よろしくお願いいたします」
「...A級冒険者パーティー“トリニティー”所属のエリシアです」
「殿下~、すいません~。向かう途中ばったり会って案内任されたんですけど強引で~」
会話を始めようとした途端部屋の扉が力強く開けられ、本日のお茶会の残りの招待客が現れました。エメラルダは兄のホラティオと同じ翡翠の眼をしていますが、エメラルダは美少女と言える背丈で銀髪のツインテール、兄の方はセミロングの銀髪で引きずり回される兄の雰囲気です。エリシアの方はいかにも魔法使いです、と言わんばかりの服装を着ていてエメラルダより少し年上に見える。所々銀髪になりかかった茶髪は帽子の中にまとめ上げていて彼女の黄金色の眼は無表情に見える。
そしてその後ろにいるある意味平凡な茶髪のイケメンは私のもう一人の側近、アブラハムがやつれたような表情をしています。編入生となる冒険者たちは余程個性的で元気いっぱいだったのか(主に一人だけ)、対応していた身として疲れたのでしょう。
セオと私は対面するように座り、ローザはセオの横、アミルはローザの隣に座っている。今登場した冒険者たちも私とセオの間でアミルとローザに対面して座るように促す。セオは新たに参加した編入生達にも蔑んだ表情で睨んでいる。猿轡がなかったら今頃冒険者風情がどーのこーの文句を言っていたでしょう。
「さて、改めて自己紹介をしておきましょう。私は皆さんが知っての通りこのファウスト王国の第一王女、セオファニア・アインツ・ファウスト、そして向かいにいるのが私の弟である王太子、セオドア・アインツ・ファウスト。その横に彼の婚約者であるロザリンド・ツヴァイ・ヴァルトレギナ公爵令嬢とヴァルトレギナ家の寄子、アミル」
順に全員の(セオを勿論除いて)自己紹介が終わる。当然ながらセオには奇妙な物を見るかのように冒険者たちはチラ見しています。愚弟が気になっては進めるべき会話にも耳に入らなければ問題なので、エイブに猿轡を外すように命じました。そして案の定...
「姉上、これはどういうことですか?!従者らしく主の後ろで佇んでいればいいものをっ、飼い犬がっ。それに荒くれ者の冒険者をお茶会の席になど呼ぶなど上に立つものの一線を軽々しく超えるような印象を与えてしまうようなもの」
「あははは!王太子のくせにチワワみたいだな!」
「ちょっ!エメル~」
「...茶葉、使ってくれた、嬉しい」
「セオ様、それでもこの者たちは」
バンっっ!!!!
....ポリポリ...スー
弟が喋れるようになった途端文句を言いふらし、ちょっとした言い争いが起き始めようとしたのが面倒極まりないのでテーブルを叩きました。
そしてそこ、魔女っ娘と寄子さんは何故そんなにもマイペースにお菓子食べてお茶飲んでいるのですか...私のメイドが入れるお茶やお菓子は美味しいのは分かりますが。
閑話休題
「セオ、確かに貴族としての社会に秩序をもたらし、国を安定させるために平民とある程度距離を保つのは必要でしょう。しかし、貴族じゃないから国を支えるべき相応しい人材をおろそかにする事は私、そして母上は由々しき事態と思っています」
「ですが姉上」
「貴方は王太子かもしれませんが、現に母上は学院という学び舎を貴族外からの秀才や天才も受け入れたく、この編入生達を招きました。その上に私を編入生達の世話係としてある程度の権限と学院での判断を私に任せたのです。これは王家の決定でして文句があるのならすぐさまこの部屋を出て母上に抗議してください」
セオは長く感じられる張り詰めた時間の中、無言で私を睨んだ後、部屋を出て行きました。訂正、出ていこうとした...拘束しているのを忘れていた...
「セオファニア殿下、誠に申し訳ありません。少しでも見解を広めるために色々と助言したつもりでしたが...このような事態に至って謝ります。」
「いいのよ、ローザ、別に私は気にしていないわ。彼は少し考え方が硬すぎるのよ。それと私からあなた達にも謝っておくわ。学院側、そして母上と私を含めて王家は勿論あなた達を学院に歓迎するわ。もし何かしらほかの生徒との間に問題が起こったり学院の処遇で改善点があったら私に言って、なるべく私の出来る範囲で対処しますから」
「おう!学校とやら何たらは初めてだから楽しみだ!」
「妹もこう仰っていますし私も楽しみです」
ネルソン兄妹は揃って学院生活を前向きに考えているようだ。
ちなみに魔女っ娘ことエリシアお菓子を食べながら親指を立ててきました。一応は私の言う事を承知したとの事かしら...お菓子の方に夢中なのですね。
「殿下、今ここにいる冒険者は全員揃って冒険者稼業ですが、その点においての対処は?」
お茶を飲んで無関心だったアミルが意外ながらも全員に関係するであろう質問をしてきた。
そう言えば今気が付いたけど、お菓子は結構出しておいたんだけど...無関心だと思ったらこの二人全部食べてたの?!
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