第6話-▼お茶会と編入生 その2
アミルの質問には一旦情報を整理して答える。あと、カーラにお菓子の追加も頼みました。
「それについては学院側の対処を少し変えてみる方針になりました。もともと学院の生徒たちは中・高等部の間に数年親や代官の下なで働きます。例えばローザと私の場合は女王陛下の侍女として行儀見習いを中等部と高等部の間に二年間程ついていました。あなた達にもそのような社会見学の時間を授けるにしても学院に編入した理由がなくなりますから、今ここにいない二人も含めて戦闘関連の授業は参加自由との形とし、その間に冒険者などの仕事をする時間とします。
勿論指南役やお手本、迷宮などのガイドとかの役割はギルドの通しての依頼として扱いますから、その時は是非出席させてもらいます。門限とかもあなた達の場合は既に稼いでいる身ですし、貴族のご子息とは違いって箱庭育ちと言うわけでもないので不問にします。あなたたち編入生の環境を鑑みてこのような卒業条件に落ち着きました」
一通りの説明を終えたら編入生達はそれぞれ納得したような表情をしている。訂正、一人はお茶を、一人は新しく来たお菓子に夢中ですけど...
「忙しくなりそうですな~」
「お兄ちゃん、頑張ろう!こんなにも素晴らしい仲間も新しく出来ることだし、オーガブレイドもいるしな!」
ゲホっ!!
ネルソン兄妹のやり取りで“オーガブレイド”の名前にアミルがせき込みました。飲んでいたお茶が肺に入ったのでしょうか。そして横にいるローザも横を向いて小刻みに震えている。
「そのオーガブレイドとやらは?」
平常心を装ってお茶を飲みなおしているアミルと口元が少し緩んでいるローザを横目に見ながら問う。
「殿下、オーガブレイドとはアミルと名乗るとあるB級冒険者のことです。噂だと一人で王都付近で暴れまわっていた突然変異のオーガを大剣で一刀両断にしたとか、戦闘では鬼の形相になるだとか」
答えたのはエメラルダではなく私の後ろに佇んでいるエイブでした。そう言えばエイブに冒険者ギルドでのアミルの事を調べさせてもらっていたわね。
「このクソガキが、変なあだ名のなんかつけやがって」
「誰がクソガキだ!」
「まあまあ、面白いあだ名ではないか。学院にその名が知れ渡った時、君の反応を楽しみにしている。それに君は影を薄くさせる傾向があるからな、これぐらいの名声も学院であった方が我がヴァルトレギナ家の寄子として相応しいと思うが?」
「このような名声はどうかと思いますがね」
ローザは愉快そうにアミルのあだ名が暴露されることを想像しているようで顔が綻んでいる。アミルは無関心だった態度とは別に少々棘が入った雰囲気が出ている。余程オーガブレイドというあだ名が嫌なのでしょう。
「私はもう十三だ!毎回私のことをアンリと揃って子ども扱いなんかして!」
「カッとしちゃダメだよ~エメル~、ここにいる皆はもう十六超えてるから。ほら~、美味しいお菓子があるから」
一方ネルソン兄妹は騒がしいが微笑ましい兄妹風景を広げている。なんとなくホラティオの方が苦労性みていなので同じ兄妹仲間として同情します。
「そーだ!殿下!今日ここにいない編入生達ってどういう者なのだ?強いのか?!」
「エメル~、だからもうちょっと静かに~」
「...ん、私も興味ある。成績優秀の編入生。ここにいるバカたちと違う?」
「妹をバカにするとは許せませんね」
「...あ?...おい魔女っ娘確かあんた」
「アミル?あなた達も王女殿下の御前です、少しは行動を慎んではどうかな?」
今ここにいない編入生達に興味を見せる中、エリシアの一言でアミルも含めてた冒険者達全員が一触即発状態になりましたが、ローザの一言には重みがあるみたいで全員が押し黙る。ローザは場を鎮める役を買って出ましたからには私の出番はないのはいいのですけれど...編入生達が問題児ばかりな様な気がしてなりませんわ。前途多難です。
「ローザ様の仰る通りです。それに、このような機会や学院ではどれくらいの節度をわきまえるのか習うのも学院の編入生としての一環ではないでしょうか?」
エイブはおどおどしながらも人を納得させられるような理由を述べる。一見頼りないように見えるがエイブは私の側近として相応しく、頭の回転も速いし空気を読むのも上手い。
編入生達もにらみ合い名がらも渋々納得したみたいでけんか腰ではなくなった。そして私は先ほどの質問を答える事にする。
「あとの二人の編入生に関しては少しは事情を知っていると思いますが、一応説明しておきます。彼女たちは貴方達冒険者のように推薦入学という形ではなく、一般的に公開した学院の編入試験に受かった奨学生の二人です。
戦闘技術の面では一般人よりですし、魔獣との戦闘もした事がないので採点しませんでしたが、魔力は一定の基準、というよりこの学院の平均を遥かに上回っています。戦闘経験はありませんが、二人とも魔法に関しての逸材であり、勉学の方も上位の成績を取れるでしょう」
「おお!それならいずれ戦ってみるのはありってことだよな!!」
「エメル~、そんな直ぐにけんかを吹っ掛けちゃダメだよ~」
「セオファニア殿下、学院の高等部では大半の生徒たちは何らかの形で戦闘訓練をしていますが、経験が全くない状態の編入生はいささか問題がじゃないか?邪魔と思う生徒も出てくると思えますし」
ローザの指摘はある意味正しい、特に貴族社会と平民という格差をつけているこの世界で。しかしゲーム内では逆に攻略対象と仲が良くなるにつれてその様な問題は消えていきますし、秀才とも言える主人公に初歩を教えるのもそのまた攻略対象達です。問題なのは未だに奨学生の内どちらが主人公なのか特定出来ないこと。二人は似たような環境で育ち、姉妹かと思えるほど性格と容姿が似ている。そしてここで主人公ではない方の奨学生を手助けと共にゲーム内にあるもう一つの設定を使うことにしました。
「それについて対応策はあります。故に編入生皆さん、そして学院に通う王族とその婚約者共々事前に顔合わせをしたかったのです。王族と侯爵令嬢とは知人の仲だと思わせれば他意を持つ生徒たちも近寄りがたいです。勿論それを逆手に取られる可能性もなくはありませんが。
戦闘関連の経験不足についてはここに冒険者達を招いた理由の一つでもあります。可能ならば冒険者で戦闘経験はもう積んでいるあなた達に彼女二人にご教授してもらいたいと思います」
出来る限りの接待顔で微笑んでお願いした。しかし、答えは期待した通りのものではありませんでした。
「...ん、教えるの面倒」
「...魔法使えませんから無理です」
エリシアには何となく教える事に問題がありそうですからね、はい...ん?
「アミル殿は報告では魔法は使えるのでは...?」
エイブはおどおどしながら私が疑問を持った事を聞いてくれる。
「...もう一度言いますが、俺は魔法は使えません」
ローザを見て確認するが、苦笑気味ながらも肯定した。
「私なら教えていいよ~!こう、ドカーンとかババっと教える!!」
「私と妹は遠慮しておきます、すいません。妹の性格がこのようなので、そして私は主に治療や支援魔法系統専門なので」
ここまで来たのに計画が崩壊し始めた。色々な意味で物凄い面倒事を学院に持ってくるような編入生な気がしてなりません。人選ミスだと母上に訴えたいです。後ろで無表情で立っていたナタルもいささか苦笑気味になるのがわかります。エイブは先ほどオロオロしているし。
「皆、ここは少し前向きに検討してはどうかな?戦闘への鍛錬が必ずしも魔法だけとは限らないし、奨学生達にも君達と似たような戦法を好む者達もいるかもしれない。セオファニア殿下、彼女たちの事を教えていただけないでしょうか?」
またもローザは話を良い方向に持っていってくれます。本当に悪役令嬢なのかと思うぐらいにいい娘ですし...制作陣に文句の一つや二つを入れたくなります。彼女も溺愛とまではいきませんが、それなりに弟のセオの事を好いている事は一目瞭然です。何故あの愚弟が好きな理由自身は彼女からは聞いたことはないですけど、きになります。
「わかりました、では僭越ながらお二人について。一人は父親が王宮での護衛兵でしたので多少は読み書きができ、もう一人は母親が元冒険者でしたので少々薬学を学んでいます」
「...ちょっと待って...その冒険者の名、何?」
「確かイミスです」
イリシアの質問に答えるとエメラルダ以外の冒険者全員が記憶を探るような仕草をしました。全員が頭傾けるのは何となく奇妙な風景ですが、話を続けさせていただきます。
「二人とも身体能力は高い方ですしスタミナも働いている身として多少なりともありますから、最低限の訓練にはついていけるかと。魔力を見たところ、二人ともの潜在魔力は壮大なものですし、“トリニティー”の冒険者達と匹敵するほどのものかと思われます」
その説明を聞き、未だに無関心でお菓子を(まだ)食べているエリシアは少しばかりの興味を示しました。勿論ネルソン兄妹も先ほどからは私の説明に聞き入っています。
「そして二人ともに試してもらいましたが、大抵の魔法系統を扱えます。正に羽化する前の天才の生徒たちと言っても過言ではないと思います」
勿論、主人公の見分けがつかない理由もそこにあります。二人とも主人公と同じような才能を秘めているからこそ。主人公がこの娘とは断定できていません。
「セオファニア殿下、ちなみにその二人のお名前を聞いても宜しいですか?」
「アナスタシア・イリノヴとミシェル・レブランジュです」
そして私は見逃しませんでした。エリシアの眼が少しだけ見開いたこと。ホラティオのやつれている目がほんの僅か鋭くなった事を。そしてアミルの視線は気づかれないほど素早く悪役令嬢になるであろうローザに一瞬向いたことを。
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