6.1

 彼女は、仕事で褒められたことがない。

 新人のデザイナーとして入社して、初めのうちは社長や先輩達のアシスタント的な仕事しかやらせてもらえないのは分かるが、彼女は8年目の今も同じ扱いを受けている。

 彼女が会社で言われる言葉はいつも同じだ。なんか違う。センスが悪い。せっかく入社させたのに期待外れだった。

 8年の間に、デザイン以外の仕事は増えた。経理業務、在庫管理、その他いろいろな雑務。誰もやりたがらない仕事ばかりだ。これらの合間に、おこぼれで回ってくる小さなデザインの仕事をこなす日々。

 ある日、彼女がデザインした服が、ある雑誌の『お手頃価格で買える流行り服』という特集で紹介された。

 低価格帯を売りにした大手衣料品店からの依頼で、そのシーズンの流行を無難に取り入れてデザインした服だった。決して大きい仕事という訳ではない。

 しかし、彼女は嬉しかった。それこそ天にも昇るほどに。

 だが、社内の反応は思ってもみないものだった。

―こんな服が雑誌で紹介されるなんて世も末だね。

―この雑誌も、ファッション雑誌じゃなくて生活情報誌だし。

―どっちにしろ、まぐれだから。勘違いしないほうがいよ。

 彼女は反論しなかった。彼らの指摘は、あながち間違いでないような気もした。

 8年の間に、彼女の心はこんなにも小さくなってしまったのだ。

 しかし、数日後、社長が出したデザインが、彼女のものと酷似していることを知る。

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