4.2

 アンソニーが彼女に話しかけた。

「飲み物を新しくしましょうか?」

「そうね。じゃあ、ウォッカを使ったカクテルを何か。強めにして」

「承知しました」

 すぐにスタッフが新しいカクテルを持ってきた。彼女は大きく一口飲んだ。

「今日は、お仕事帰りですか」

「まあね」

「どのようなお仕事をされているんですか」

「普通の会社員」

 一瞬、彼女の目が不安げに泳いだ。

「小さな会社なの。社長を含めて4人しかいないアパレルメーカー。でもね、割りと売上は良いの。私、これでもやり手なんだから」

 彼女のおしゃべりは、どんどん早口になっていく。

「私、会社にはかなり貢献してるほうだと思う。デザインの仕事でも、他の仕事でも。社長と他の社員は、自分の好きな仕事しかしないの。でも、それで良いデザインが生まれるはずがない。デザインは、その人の生き方が反映されるものだもの」

 アンソニーは、静かに耳を傾けていた。

「だから、この間、そういうことをビシッと言ってやったの。そしたら、それが効いたみたいでボーナスが出たんだ。それも結構たくさん。7月には出なかったくせにね。それで今日は自分へのご褒美に、ぱ~っと遊ぶつもりで来たの」

 ここで彼女は一旦、言葉を切った。その目はどこか遠くを見ている。

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