4.1

「失礼します」

 見ると、黒いウサギが彼女を見上げている。

「アンソニーです。よろしくお願いします」

(あら。また黒い子が来た)

 黒いウサギは優雅に跳躍し、音もたてずに彼女の隣に収まった。

(まあ、別にいいか…)

 そのウサギは、しなやかで美しい姿をしていた。黒いベルベットの首輪の真ん中には紫色の石が輝いており、彼女はそれを見て、紫色をしているということはアメジストか紫水晶あたりかなと、ぼんやり考えた。

 実はこの時、店の奥で何人かのスタッフとホストが、こんなことをひそひそと囁き合っていた。

「おい、アンソニーさんがユキヤさんの後に入ったぞ」

「何でだ?」

「さあな。どっちにしろ、あの客、運が良いな」

「指名なしでナンバーワンと飲めるなんてな」

 スタッフ達が言い合っている通り、アンソニーはこの店のナンバーワン・ホストである。

 ナンバーワン・ホストが空いていることなど滅多にないのだが、たまたま空いていたのだろうか。

 いや、実はここにいるスタッフ達は知らないが、アンソニーはちょうど店にやって来た自分目当ての客に頼んで、ユキヤを指名してもらったのだ。

 アンソニーも「暁の古城」のクロード同様、彼女の中にある危ういものを感じ取ったのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る