3.2
「そうだよね?!あんな店、二度と行かない!」
このウサギは名をユキヤと言い、決して悪いホストではないのだが、やや征服欲が強く、拝金主義的なところもある性格だった。
斜め下の角度から、彼女の顔を思わせぶりに仰ぎ見る。
「向かいの店と、この店と、どちらがお好きですか?」
ユキヤの真っ黒な丸い目で見つめられて、彼女は胸がドキドキした。酔いも回っているのかもしれない。
「も、もちろん、このお店よ」
「僕のことはどうですか?お気に召していただけましたか?」
彼女の顔が赤くなった。今まで男性からこんなふうに迫られたことがないので、何と答えていいか分からない。
有能なホストにかかれば、彼女のような客は、簡単に口説き落とされてしまうのである。
その時、スタッフからユキヤに声がかけられた。
「ユキヤさん、お客様がお呼びです」
これを聞いて、ユキヤは心の中で唇を嚙んだ。
(ちっ。このタイミングでか…)
この客にボトルを入れさせるところだったのだが、指名が入ったのではしょうがない。
申し訳なさそうな笑顔を彼女に向けて、ユキヤは席を立った。
「申し訳ありませんが、ちょっと席を外します」
「あら、残念…」
「他の者がお相手しますので」
ユキヤの丸い尻尾を見送りながら、彼女はため息をついた。
一軒目の店を怒って飛び出して、この店ではホストが早々に他の客のところに行ってしまって、気分が少し削がれていた。
だが、すぐに彼女は自分の足元に何かがいるのに気付いた。
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