2.3

「何そのどっかの料亭みたいなルール。固いこと言わないでよ」

 クロードの黒い皮の首輪にあしらわれているダイヤモンドが、静かに揺れてきらりと光った。

「店の方針ですので…」

「いい。もう帰る」

 腹を立てた彼女は、奥からわらわらと出てきた何人かのスタッフ(人間である)とホスト(こっちはミニブタだ)が取り成すのも聞かずに、店を出て行ってしまった。

 クロードがロミオに低く囁いた。

「ロミオ、悪かったな。埋め合わせはさせてもらう」

「いえ。あの客、ちょっとキレ気味だったんで、クロードさんがストップかけたのも分かります」

 彼女を引き止めに行っていたスタッフとホスト達が、やれやれと戻ってきた。

「あの女性、これ見よがしに向かいに入っていきましたよ」

 向かいとは、あのバーテンがここと一緒に勧めた店だ。

 店の名を「スキャンダラス・バニー」といい、「暁の古城」のホストがミニブタなら、「スキャンダラス・バニー」のホストはウサギである。

「強欲ウサギに、根こそぎしぼり取られなけりゃいいんですけど…」

「あの客、簡単に乗せられそうだな」

 スタッフとホスト達が、呆れ顔ながらも、ほんの少しだけ心配そうに言う。

「ふん」

 俺の知ったこっちゃねえと、クロードは渋い顔で上向きの鼻を鳴らした。

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