2.2

 この店では、こういう客は珍しくない。だが、彼女の何かが、この様子を見ていた者の注意を引いたようだ。

「ねえ、ロミオくん。ボトル入れてあげようか。何でも好きなの言って」

「嬉しいです。でも、本当に良いんですか?」

 彼女は上機嫌でロミオの耳を撫でながら、ある種の耳障りなトーンで話し続けている。

「遠慮しないで。私、お金持ちなんだから」

 ここに一匹のホストがひづめの音を響かせながらやって来た。全身が艶やかな黒い毛に覆われた、堂々としたオスのミニブタである。

 彼は、彼女の足元に腰を落として座ると、彼女の顔を真っすぐ見上げた。このポーズは、人間で言うと、ひざまずいているのに相当する。

「申し訳ありません。うちは初めてのお客さんには、スタンダードメニュー以外のものは出さないことになってるんです」

 腹に響くような、重低音の声だった。

「え?」

 この黒いミニブタは、「あかつきの古城」のナンバーワンで、名をクロードと言う。

 一般的にはミニブタは可愛らしいもののはずだが、クロードは野生的で少し尖ったところがあるミニブタだった。

 これは背中のてっぺんに生えている、他よりも少しだけ長くてツンと立った体毛と、時折鋭く光る眼光のせいだろう。

「初回はあくまでも様子見だけで、お好きなものを自由に注文できるのは、三度目の来店からにしていただいてるんです」

 クロードの物腰は至極丁寧だった。

 しかし、彼女は納得できない。

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